アンダンテ・カンタービレ

今年はコロナで外出がほとんどできなかったせいか、季節の移ろいが感ぜられないまま、春が過ぎ、夏が過ぎ、いつの間にか秋になってしまったような感じがする。

 

明日は10月31日、最近ではこの日は、ハロウィンとかで、世の中お祭りのように騒々しい。さすがに今年はコロナ禍で、ハロウィンも例年より自粛され、控えめになると思われる。私は、日本のハロウィンはバレンタインデイ同様、商業主義に踊らされているだけと考えている天の邪鬼なので、その方が望ましい。

 

毎年10月31日ころになると、私は入社した年のその日を思い浮かべる。

 

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         写真ACより フラワーピクニックさんの作品

 

その日は土曜日で、当時私の会社は、土曜日は半ドン(仕事は午前中のみ、午後は休み)だった。日曜日を翌日に控え、仕事から解放され自由時間を持て余していた私に、先輩が「ちょっとお茶でもどお?」と声をかけてくれた。

 

赤坂から青山方面に向かって歩く。街路樹の葉は色づき、舗道には落ち葉が舞い、上を見上げると、真っ青な空にウロコ雲「あ~秋だな~!」と思わず呟いてしまうような、気持の良い秋の午後だった。小さなビルの中の洒落た喫茶店に入った。

 

そこでBGMで流れていた曲が、どこかで聞いたような(中学校の学校放送か?)懐かしくもあり、今歩いてきた秋の情景にぴったりとの印象だった。先輩に訊くと「アンダンテ・カンタービレだよ」と教えてくれた。

 

その時先輩と話した内容は、ほとんど覚えていないが、熱いココアをすすりながら聴いたこの曲のことは、何十年もたった今でも鮮やかに思い出す。以降私にとっては、「アンダンテ・カンタービレ」=「10月31日」となった。

 

このブログを書くにあたって、「アンダンテ・カンタービレ」のことを調べてみると、ロシアの巨匠チャイコフスキー1871年に作曲した「弦楽四重奏曲第1番第2楽章」の冒頭部を編曲したものという。トルストイが「アンダンテ・カンタービレ」を聴いて感動のあまり涙したというエピソードもあるそうだ。

 

「アンダンテ」は音楽の速度用語で、歩くようなテンポをいい、「カンタービレ」は、これも音楽用語の発想記号で「滑らかに、流れるように、歌うように」ということらしい。すなわち、歩くくらいのテンポの流麗な曲ということか。

 

落ち葉を踏みしめ、秋の風情を楽しみながらの散策には、この曲のメロデイが似合っているのだろう。

 

YouTube で、「アンダンテ・カンタービレ」と検索すると、50本以上の動画が出てくるが、どれもあの時の私のイメージにぴったりとくるものが見当たらない。その中では、下記の演奏が私には一番良かったので貼り付けします。

 


チャイコフスキー:弦楽四重奏曲 第1番 ニ長調 Op.11 第2楽章