うりずんの頃/永井龍雲さん

先日天気予報で、沖縄/奄美地方が梅雨に入ったと報じられ、今年の「うりずんの頃」は終わってしまったのかと思った。

 

うりずん」とは、沖縄地方で春分から梅雨入り前の時期のことで、「潤い初め(うるおいはじめ)」が語源とされている。

 

暖かくなって、雨で植物が潤い花開き、緑は青々とし、空は澄み渡る。この時期の風は、沖縄特有の湿気を含んだ風ではなく、からっと乾いた風で、うりずんの頃は沖縄では最も美しく過ごしやすい季節なのだ。

 

シンガーソングライターの永井龍雲さんが作詞作曲し、坂本冬美さんに提供した「うりずんの頃」という曲がある。恋に破れ夢に破れた本土で暮らすウチナーンチュ(沖縄県人)が、この時期の故郷沖縄の風景に思いを馳せ、望郷の念に駆られる曲だ。

 

ゆったりとした大らかな沖縄らしいメロディに、故郷への思いが切々と綴られている。ちなみに永井さんは、1999年以来沖縄に移住している。

 

私は、この曲が凄く良いと思うのだが、知名度が今一つなので、一人でも多くの方に知ってもらいたくて紹介します。

  

YouTubeには私のお気に入りの、坂本冬美さん歌唱の動画が削除されてしまったので、永井龍雲さんのセルフカバーの動画を貼付します。

 

うりずんの頃」 作詞、作曲、歌唱 永井龍雲

 


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永井龍雲さんは、1957年生まれの63才、福岡県出身のシンガーソングライター。1978年デビュー、1979年「道標(しるべ)ない旅」がグリコアーモンドチョコレートのCMにもなってヒット、1981年にはオールナイトニッポンのパーソナリティも担当した。

 

作品は数多く、スタジオアルバムだけでも1978年から2017年までに21本発表されている。

 

彼の曲は、メロディが抒情的で、詩のひとつひとつの言葉が洗練されていて心に響く。中でも次の二つは、私の好きな作品で、曲を聴いていると情景がまざまざと目に浮かび、一編のドラマを見ているようだ。

 

 

<つまさき坂>

春のある日、つまさき坂で、昔付き合っていた女性と再会する場面を曲にしたものだ。歌詞が素晴らしい。

 

1番 爪先上がりの坂道で

  偶然君と出会ったのは

  春の日にしては肌寒く

  日射しの頼りない午後の事 

  うつむき加減に坂を下りてくる君を

  僕はもう疾(と)くに立ち止まり見ていた

  ふと目を上げたその顔は  

  まるで病葉(わくらば)が散るように  

  微(かす)かに揺れた

 

2番 その場に二人は立ち尽くし

  暫くは思い出に迷い込む

  再びざわめきが戻ってくると

  軽く会釈をして通り過ぎた

  擦れ違い様のあるなしのそよ風に

  きみの香水の芳(かお)りが漂う

  それはいつでも君からの

  便りにそっとさりげなく

  添えられていた

 

3番 随分君も変わったね

  薄く口紅も引いてたみたい

  お化粧嫌いの君を誰が

  そんなに自由に操っているのか

  徒(いたずら)に過ぎる時に戸惑いながら

  僕はまた君の面影に逡巡(ためら)う

  足早に行く君の背は

  雲に濾(こ)された日の光に

  空しく消えた

 

  雲に濾された日の光に

  空しく消えた

 

(以下は私の解釈だが、間違っているかもしれないし、人によって異なる捉え方があると思う)

 

肌寒い春のある日の午後、つま先上がりの急な坂道にさしかっかった僕は、坂の上から、うつむき加減に下りてくる君を見つけた。立ち止まって君の下りてくる様子を、じっと見つめていた。君が近づいて、ふと目を上げた君は僕に気付き、驚いたようだったが、その顔は「まるで病葉が散るように」微かに揺れただけだった。

 

その場に二人は立ち尽くし、お互いに付き合っていた頃の思い出に耽(ふけ)る。我に返った君は、何も言わず軽く会釈して再び坂を降り始める。話したいことはいっぱいあるのに、話せば今の自分が崩れてしまうと君は思ったのか、無言で僕の横を通り過ぎる。その時君の香水の香りが、有るか無しかのそよ風に乗って漂ってきた。それは付き合っていた頃、君からの便りに添えられた香りだった。

 

擦れ違う時、僕は見てしまった。君が薄く口紅をひいていたのを。お化粧嫌いの君を自由に操っている者がいるのだと想像すると、僕は嫉妬心を抱いてしまう。君との貴重な再会の時間は徒に過ぎていき、後姿の君を見つめながら、僕は今見た君の面影を幾度も思い返す。足早に去っていく君の背中は、雲のフィルターで淡くなった春の光の中へ消えていった。

 

 

こういう時、女性の方が冷静で、男性はどぎまぎして心乱れるものなのだろう。

 

 

「つまさき坂」作詞、作曲、歌唱 永井龍雲

 


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<心象風景>

故郷(ふるさと)行の汽車に乗って故郷に近づくと、いつもきまって思い出すよあの日のことを・・・と軽快ながら哀愁のあるメロディに乗って故郷を後にした時の「心象風景」を歌い上げている。

 

君と過ごした街を離れる時、君は「駅のホームで涙流し見送るのはみじめだから嫌よ私は」と言って見送りに来なかった。僕は朝一番の汽車で旅立つ。薄暗い中、君の家の近くの踏切に差し掛かった時、君の赤いセーターを見つけた。それがが次第に遠ざかり、やがて一つの点になった。

 

後部車両のデッキに立って、手を振る僕が見えただろうか。君の胸を打つ鼓動さえもが僕のそれと重なり聞こえた。これが最後に覚えてる君に纏(まつ)わる心象風景・・・と続いている。

 

なかなかドラマチックな展開だ。

 

「心象風景」作詞、作曲、歌唱 永井龍雲

 


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<女の酒場>

永井さんは、「暖簾」「女の酒場」といった演歌も作って、五木ひろしさんに提供し、自らも歌っている。彼は「暖簾」で、1989年第22回日本作詞大賞・優秀作品賞を受賞した。

 

ここでは、私の好きな「女の酒場」を永井さんのセルフカバーで紹介します。

 

「女の酒場」作詞、作曲、歌唱、永井龍雲

 


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