しばらくお休みしていた「へんろ日記」、昨年12月21日にアップした「へんろ日記 6」の続きです。
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11月9日(木)(晴) (2017年/平成29年)
5:45 前日宿泊したビジネスホテルは、朝食が出ないので、この日も早朝出発する。
昨日、このへんろで一番の強行軍を強いたので、身体は相当疲労しているはずであるが、早朝で気分が良くて、歩いていて鼻歌がでるほどだった。(高田みづえの「秋冬」)
6:40 塚地坂トンネルの手前の道端に、愛嬌のある恵比寿様か大黒様の石像が設置されていて、誰かがヘルメットを被せてあり、思わず笑ってしまう。
トンネルは歩道も完備された立派なもので、歩きやすく、通過に10分を要す。
7:10 トンネルを抜けて直線の下り坂を快適に歩いて行くと、それまでの風景がガラリと変わって、目の前に宇佐湾の青い海原が広がる。昭和48年にできた立派な宇佐大橋を渡って、対岸の36番青龍寺のある横浪半島に向かう。
この橋ができるまでは、渡し船が唯一の交通手段だったという。
8:20 36番青龍寺(しょうりゅうじ)着。空海が遣唐使として唐に渡り、長安の青龍寺で真言密教の教えを受けて帰国、空海はその恩に報いるため、この地に建屋を建立し、不動明王を安置した。それが、このお寺の始まりとされている。
青龍寺も他の多くの札所のように、本堂と大師堂は長く急な石段の上にある。青龍寺の石段は170段。大相撲の元横綱「朝青龍」が、モンゴルからこの寺の近くの明徳義塾高校に相撲留学をしていた時、この石段を登って身体を鍛えていたという。
ちなみに、四股名(しこな)の「朝青龍」はこのお寺の名前からとったそうだ。
ここから、明日の宿(37番岩本寺予定)の予約電話を入れる。予約はできたが、素泊まりで食事は付かなかった。
9:15 青龍寺からこの寺の奥の院に通じる山中のへんろ道を登ること20分、横浪スカイライン(県道47号)に出る。その名の通り、左に土佐湾の絶景を、海抜100m前後をアップダウンして眺めながら車で走る観光道路だ。
凄く景色が良く素晴らしいところだが、伊豆箱根や関東地方のスカイラインに比べると車の数は極端に少ない。
12:00 武市半平太像広場 スカイラインをしばらく行くと、右手に坂本龍馬と並ぶ郷土の英雄武市半平太のドンと構えた立派な銅像があり、周りが広場になっている。
左足小指、右足親指が痛くて、テーピングする。
14:00 県道23号と合流
15:10 住友大阪セメント工場 遠くからこの工場の巨大なサイロが見え、これに向かって40分程歩く。へんろを始めて以来、自然の風景の中を歩いてきたので、工場の大きな人工物には違和感を感じる。
16:20 須崎市 I 旅館着。こ綺麗で清潔感のある小さな旅館だが、ここも食事が付かない。
入浴後、須崎の新しく開発された大型スーパーのショッピングセンター用地の一角にある回転すしに行く。漁港の町なので、回転すしといえども地元でとれた魚も扱っているようだ。
こんな小さな地方の町ではあるが、家電量販店2店と、大型スーパーが揃っているのには驚いた。
18日目の歩数 57,700歩 歩行距離 37.5㎞
11月10日(金)(晴)
5:05 今日も宿の朝食が付かないため、早朝出発
5:55 仕出し屋 この時間から店が開いていて、おにぎり、玉子焼きが棚に並んでいてそれを購入する。後ほど朝食として食べたが、コンビニとは違う昔のおにぎりの味がして、美味しかった。
6:40 JR阿波駅近くの国道56号 国道だが車はほとんど通らない。日の出の頃の海を眺めながら歩く。「この景色を独り占めして歩くなんて、家にいたのでは、絶対に味わうことができない経験を今しているのだ、なんて贅沢なことか」と思う。
7:00 焼坂トンネル このトンネルの歩道は段がついておらず車道と面一(つらいち)なので、大型車両とすれ違う時はとても怖く、トンネルの壁にへばりつくようだ。対向車がスピードを上げて通過する中、大型バスがこちらに気付き、減速してくれたのには、その心遣いに涙が出そうになるほど感激した。
8:10 土佐久礼駅入り口 久礼は、青柳祐介の漫画「土佐の一本釣り」(二度映画化されている)の舞台になったところで、須崎のような新しく大きな店も無く、漁師町の面影を残す風情のある町である。
細い路地を歩いていると、「土佐の一本釣り」の主人公純平の恋人八千代のような女子高校生が、自転車で通り過ぎていった。
10:00 高知自動車道下 久礼から大坂谷川に沿って緩い登り坂を約一時間登って行くと、谷あいの2~3の農家が点在する集落の上に、巨大な自動車道と橋脚が目に飛び込んでくる。
こんな山間の地で、このような建造物はミスマッチではあるが、どのようにして建造したのだろうかと興味をそそられる。この静かな集落も、工事中はダンプの往来でさぞかし大変だっただろう。
ここから先、国道56号までは、「大坂遍路道」といって、へんろ道の中でも難所である。地図には「降雨の際は、滝の流水で通行不能の場合がある」と記述されている。
11:00 国道56号 連続する急登をゆっくりと、それでも苦しくてハーハーと息をつきながら登る。最後の階段は一段の高さが、短い私の足では持ち上がらないほど高く、バテバテになって、やっとのことで坂の上の国道に辿り着く。
11:50 影野 国道と平行に走る緩い下りのへんろ道を、先ほどとは打って変わって快調に飛ばしていたら、喉がからからに乾いた。自販機を見つけ600ccのエナジードリンクを一気に飲み干す。
13:10 仁井田へんろ接待所 幟(のぼり)に魅(ひ)かれて立ち寄る。主(あるじ)は、東京町田からここに移り住んで、ボランティアでへんろの接待を続けている。先着の2~3人のへんろがコーヒーで接待されていた。
ここで、明日の宿として、ゴルフ場内ロッジの電話番号などを教えてもらう。
休んでいた私と二人の男女へんろが、同時に歩き始める。二人とも歩くのが早く、私は彼らの後方を歩いていたが、みるみるその差は広がった。特に女性は先達が被るような菅笠を着用、スタイルが良く、歩く姿も美しい。へんろ経験も豊富のようで、元陸上のアスリート選手かなと思った。
14:45 37番岩本寺着。初回へんろの時は、ここで食事もできたが、今回は素泊まりである。食事を出すかどうかは、宿泊者数で決めるらしい。
風呂は入れるので、大浴場に行くと、先客がいて話をすると、彼は60才で年2回、12回もへんろで回っているという。他人事ながら、社会的、経済的にどういう生活をしているのか気になった。
18:00 岩本寺のある窪川の町を散策しなが食事処を捜し、うなぎ屋に入る。この店は、宿もやっていて、「ここなら食事もできたな~」と思う。地元の常連が、お酒を吞みながら食事していて、おかみと地元の言葉でやりとりしている。私は完全にアウェイと言った感じだ。
壁には、「にっぽん縦断こころ旅」の火野正平さんの色紙と写真が飾ってある。私はこの番組をほとんど毎回見ているが、この店の放送を見た記憶はない。
松の鰻重を注文する。窪川は四万十川の上流に位置し、四万十川で取れた鰻やカニ、川魚料理が名物だ。ご飯を多めと言ったら、山盛りで出てきて、味も極めて美味しく鱈腹となった。
19日目の歩数 58,700歩 歩行距離 38.1㎞
11月11日(土)(晴)
4:55 37番岩本寺出発。本日も早朝出発。
5:05 コンビニ F 鳥そぼろ弁当を買って、コンビニのイートインで食べる。
6:20 片坂峠 国道56号の単調な登坂を一時間近く登る。今日はザックが重く感じる。体調が悪いのか? 峠の先は下り坂。国道を離れてショートパスで山中を抜けるへんろ道が、二か所ある。距離は短縮できる。
8:50 シダ坂 歩道の整備されていない山中の国道を、4時間近く歩いていると、うんざりと閉口する。
9:50 伊与喜 国道を5分程行って、へんろ道になっている旧道に入る。
昨日岩本寺の手前で会った元アスリート選手のような女性が、後ろからやって来て私に追いつき、しばらく一緒に歩いて話した後、彼女のペースを乱さないように先に行ってもらう。彼女の歩く後姿は、実に美しくて、惚れ惚れとする。彼女は今日帰ると言っていた。
10:05 熊井トンネル 伊豆の天城隧道にも劣らぬ風情のあるトンネルだ。明治38年(1905年)に完工した90mのレンガ済みのトンネルで、昭和14年までは県道として利用されていたという。
(トンネル出口の白い点は、先行した女性へんろ)
10:55 土佐佐賀 国道から旧国道沿いに土佐佐賀の集落に入る。伊与木川の堤防に腰掛けて、メロンパンとバナナで昼食とする。地元の若いお母さんが、幼児の手を引いて軽く会釈をして通りかかった。晴れたのどかな土曜日だ。
11:30 佐賀公園 国道の海側が整備されて、公園になっている。長い公園で端から端まで歩いて15分位かかった。この辺りも海岸線は美しい。
13:05 井の岬トンネル
14:35 道の駅「ビオスおおがた」
本日の宿泊地は、岩本寺手前のへんろ接待所で紹介してもらった「土佐ユートピアカントリークラブ」というゴルフ場内のロッジを予約した。道の駅までゴルフ場の車が、迎えに来てくれる。
15:00 ゴルフ場ロッジ 朝食は8:00というので、キャンセルして明日も早朝出発とする。
ロッジの設備は古いが、大浴場の温泉、二食付きで5000円は安い。洗濯も無料。夕食では、ビール2本と鰹のたたき、うつぼのから揚げを追加注文した。(この食べ物のせいか、翌日体調を崩すこととなる)
サービスは良好で、布団には、女性従業員による宿泊の礼と、部屋の掃除等心を込めてやったとのメッセージカードが添えられていた。
20日目の歩数 58,800歩 歩行距離 38.2㎞
ー続く(非定期)ー