おいしい給食

「おいしい給食」は、2019年10月~12月にテレビ神奈川、TOKYOMX、BS12他で放送された一話30分10回連続の学園グルメドラマだ。

 

放送チャンネルが在京キー局ではなく、マイナーな地方局であったが、放送が好評につき、映画化され、Season  1 の完結編という位置づけで「劇場版おいしい給食 Final  Battle」が、2020年3月に公開された。更にドラマの続編が「おいしい給食 Season 2」として2021年10月~12月に放送され、その完結編の位置づけである「劇場版おいしい給食 卒業」が映画化第2弾として2022年5月に公開された。

 

美味しい食事やお酒の店で、食べたり飲んだりして話が進むグルメドラマは、「ワカコ酒」「孤独のグルメ」「ひねくれ女のボッチ飯」など最近ブームなのか数多く放送されている。

 

「おいしい給食」もそんなジャンルの番組なのだろう。この番組が放送され映画化された時は、その存在は全く知らなかった。最近CS放送の「ファミリー劇場」でこの番組のSeason1、 Season2が一挙再放送されたので、録画して見た。

 

物語の舞台は、Season 1が1984年夏の市立常節 (とこぶし)中学校、 Season2が1986年夏の市立黍名子(きびなご)中学校という田舎の中学校である。

 

市原隼人が演ずる主人公・甘利田幸男は、1年1組担任の数学教師(生徒に数学を教えているシーンは一度もないが・・)で、給食絶対主義者だ。彼が何故そうなったかは、初回放送の冒頭、校門で出校時生徒の点検をしながら独白している。

 

「私は給食が好きだ。給食の為に学校に来ていると言っても過言ではない。何故なら母の作るご飯が不味い(まずい)からだ。うちの家族は頑張っている母を傷つけないように、『美味しい、美味しい』と言って食べる。たまに出前になった時、父は涙を流して喜んでいる。だから給食は私にとって一日で最も充実した食事だ。

 

今日の給食は待ちに待った『鯨の竜田揚げ』ひと月に一度巡ってくるこの出会いに自と(おのず)とテンションは上がる。早く昼になれと願わずにはいられない。だがそんなことは決して回りに知られてはならない。教師が生徒以上に給食を楽しみにしているなどと知れたら、私の威厳は失墜する。なのでただ心の奥底で給食を愛するだけだ。」

 

というこで、甘利田先生は、授業や生徒のことよりも給食の献立が気になるようだ。甘利田の受け持つクラスに神野ゴウという生徒がいて、彼も又給食を愛し、美味しく食べる工夫を日々考えている。

 

甘利田は、神野が自分には思いつかない美味しい食べ方をするのを見ては「負けた」と感じ、次回は彼より美味しく食べようとライバル心を新たにする。ドラマはこの二人の「給食の美味しい食べ方バトル」で進行する。

 

甘利田は、ただ給食好きのいい加減な先生のようでもあるが、いつもメガネをかけてスーツ、ネクタイ姿で威厳を保ち、生徒や回りの教師には理詰めで対応し、相手が子どもであっても自分が間違っていれば素直に認めるべきと考える。

 

また、生徒のことを真面目に考えていないように見えて、クラスの座席については、生徒一人一人の人間関係や人格を考慮した配置を考えるという、きめ細かさも持ち合わせている。

 

ドラマはタイトル通り毎回給食のシーンがメインだ。まず、クラスの机配置を給食用に並び替える。配膳室から給食当番の生徒が大鍋を教室に運び、当番が一人一人に献立を盛り付ける。

 

 

甘利田も生徒の列に並び、盛り付けられたメニューのトレーを教師机(生徒に対面した最前列左端)に置き着席。

 

<鯨の竜田揚げ、キャベツソテー、春雨サラダ、コッペパン、いちごジャム、牛乳>

 

ここで、食事の前に全員で校歌が斉唱される。Season1の、常節中学校の教育理念は「食育健康」で校歌もそれに沿ったものだ。この校歌は、凄く歌いやすく耳に残る校歌で、私はドラマで聴いていて覚えてしまった。

 

甘利田は、待望の給食が食べられる喜びで、自らも生徒に合わせて、両腕を振ったり机を叩いたりして拍子をとって歌い、終盤で机に拳をぶつけて痛がる場面が恒例になっている。市原隼人の演技が光るシーンだ。

 

 

そして給食当番の代表二人の男女生徒による「いただきます!」の合図で食事が始まる。

 

 

甘利田は食事前にメガネを外し、メニューに対する豊富な蘊蓄(うんちく)をナレーションで披露しながら実に美味しそうに食べる。その食べっぷりの演技も良い。

 

献立は第一話の「鯨の竜田揚げ」から始まって、「ポークビーンズミルメーク」「ソフト麺」「八宝菜」「酢豚」「焼きそば」・・・と続く。

 

この中で、私が子供のころ給食で食べたものは、「鯨の竜田揚げ」くらいで、あとは記憶がない。又私の時代、給食が美味しいと思ったことは、ほとんどなかった。この番組の時代設定は1980年代で、自分の給食と比べると「その当時から結構美味しそうで、バラエティ豊かになっていたのだな~」との印象だ。

 

 

ドラマの内容は教師甘利田と生徒神野の給食を如何に美味しく食べるかのバトルで毎回進行するが、ストーリーは、①ドラマ Season 1 ②映画 「Final Battle 」③ドラマ Season 2  ④映画 「卒業」 と連続して繋がっている。

 

②では、常節(とこぶし)市の生徒数増加により市立中学校の給食廃止が決まり、甘利田と神野が廃止反対に奔走するが、教育委員会委員長鏑木により、「決定事項」と撥ねつけられる。「給食をバカにするあんたに、教育を語る資格はない」と甘利田に言われた鏑木は、それを根に持ち、甘利田を黍名子(きびなご)市の中学校に転籍させてしまう。

 

そして、2年後の1986年夏の黍名子中学校を舞台にしたSeason 2 が始まり、甘利田は、3年1組の担任だ。神野も母の仕事の関係で黍名子市に引っ越してきて、偶然また甘利田のクラスに入り、Season  1 同様美味しい給食の食べ方で甘利田とバトルするという内容だ。

 

黍名子市教育委員会の職員になった鏑木が、給食を第一に考える甘利田を教師として相応し(ふさわし)くないと考え、教職追放に追い込むべく画策する。

 

最終話では、鏑木が主催した「甘利田の教師としての素行不良」に関する臨時職員会議聴聞会が開かれる。ここで、同僚で学年主任の宗方から以下の発言がされる。

 

「最初は甘利田先生が苦手だった。思ったことを何でも言って、どんどんルールを変えて、でも自分の意見は絶対変えず、こういう人は学校にとって良くないと思っていた。」

「確かに甘利田先生は、毎朝穴の開くほど献立表を見て、朝のホームルームも今日の献立を想像する時間に充てている。給食前の校歌は大声で歌って踊り、給食中は誰も寄せ付けないオーラを発揮する。」

「生徒たちはそんな先生が大好きだ。」

「最初、甘利田先生が嫌いだった。自由だからだ。私がこんなに不自由なのに、なんでこの人だけがこんなに自由なんだって・・・だから嫌いだった。」

「甘利田先生は、好きなものを好きでいられる。そんな風に私もなりたい。」

「教師が給食が好きでいけないのか?」

 

この宗方の発言により同席した教育委員の作本に、鏑木の甘利田排斥案が却下されて、Season 2 が終わる。

 

このドラマを見た感想は、主人公甘利田を演じる市原隼人の演技が飛びぬけて上手いことだ。普段は給食好きを隠すため、沈着冷静で理性的に振舞っているが、いざ給食となった時の豹変振りが面白い。

 

又仕事の働き方、勉強の仕方についても、好きなことを貫き通す甘利田のやり方は一考に値する。

 

仕事でも勉強でも「楽しい」ことを見付け、その気持ちが入ることにより、前向きに積極的になれ、それにより「楽しさ」は増幅する。甘利田は給食で「楽しさ」を追求したが、我々も人それぞれの「楽しさ」を追求してみてはどうだろう。

 

1980年代が中学生だった世代にとっては、当時が懐かしく思い出されるドラマのはずだ。