春場所の朝之山

先の初場所、西十両12枚目の朝之山は、14勝1敗で十両優勝した。2月27日春場所の新番付が発表され、朝之山の幕内復帰が期待されたが、それはならず東十両筆頭と十両に留まることとなった。

 

新番付編成にあたり、幕内から十両に陥落するする力士は3人引退1人で、幕内の空き数は4人、それに対して十両からの昇進候補は5人いて、朝之山は順位では5番目だった。

 

先場所優勝していること、幕内上位陣が安定していないこと、人気実力ともに兼ね備え、相撲興行的には魅力があることから、朝之山の返り入幕もあるのではないかと考えていたが、結果はならなかった。

 

幕内に昇進できなかったことは残念ではあるが、気持ちを切り替え、今場所は正々堂々と誰が見ても文句のつけようがないような成績を残して来場所幕内に復帰してもらいたいと思う。

 

春場所前の稽古で、朝之山の所属する高砂部屋へ、霧馬山、若隆景、若元春らの三役ほか関取衆が出稽古にきた。

 

朝之山は彼らとと申し合いをし、26番取り20勝6敗と圧勝している。三役以上の力士と取るのは、不祥事以来のことで「稽古前は正直怖かった。押し込めるかなとか簡単に押されるのではないかという気持ちがあった」と心配したそうだが、全然衰えてはいなかった。幕内でも十分戦える順調な仕上がりである。

 

 

3月12日、大阪の春場所が開幕した。春場所の朝之山の取組を見てみよう。

 

⑴ 初日 水戸龍戦

初日の朝之山は、21年夏場所以来の幕内の土俵に上がることになった。対戦相手は前頭17枚目の水戸龍

(取り口)朝之山は、立ち合い鋭く右の下手を取り出ていく。左上手は引けずバンザイの形になるが構わずそのまま寄り切った。   (決り手) 寄り切り 朝之山 1勝

 

初日の硬さがあり、十分な形になれなかったが、勝ててまずは一安心。

 

⑵ 2日目 千代の国戦

(取り口)立ち合い千代の国のもろ手突きで、朝之山は少しのけぞったが、その後千代の国が引いたところを前に出て押し出す。  (決まり手) 押し出し 朝之山 2勝

 

 

⑶ 3日目 東白龍戦

(取り口)東白龍は突っ張りとのど輪で東土俵まで一気に攻めるが、朝之山はこらえて回り込む。その後動き回る東白龍に必死でついていき東土俵に送り倒した。

                     (決まり手) 送り倒し 朝之山 3勝

 

⑷ 4日目 逸ノ城

逸ノ城は、昨年末朝之山同様、新型コロナウィルスの協会ガイドラインに違反して初場所の出場停止処分が下され全休となったため、今場所は十両3枚目まで番付を下げた。しかし昨年の名古屋場所では幕内優勝している実力派である。ここまで両者とも3連勝している全勝対決だ。   

 

(取り口)朝之山は、立ち合い左上手を取って西の土俵に寄っていく。逸ノ城は俵に両足を乗せてこらえ、朝之山の上手を切って逆に左上手を取ると逆転の上手投げを放って朝之山を下す。        (決まり手)逸ノ城の上手投げ  朝之山 3勝1敗 

 

朝之山は宿舎に帰ると、負けた映像を何十回と見て敗因は「上手が切れた状態で前に出た」ことと結論付ける。「結果は悔しいけど前に出て負けた。次に繋がる相撲だった」と気持ちを切り替える。「落ち込んでいる暇はない。寝て起きたら取組がくるので」と気落ちの様子は見せなかった。

 

⑸ 5日目 栃ノ心

栃ノ心大関経験者であるが、肩などの負傷で成績が振るわず、今場所は十両2枚目まで番付を下げている。 四つに組んでまわしを取れば、抜群の力を発揮する力士だ.

 

朝之山は「幕内時代は栃ノ心とはよく取っていたし、巡業では右四つをよく教えてもらっていた。今があるのは栃ノ心関のお陰」と感謝の念は忘れない。

 

(取り口)朝之山は立ち合いから鋭く踏み込んで右を差すと左上手もガッチリ掴んで一気に寄り切った。           (決まり手)寄り切り 朝之山 4勝1敗

 

 

⑹ 6日目 千代丸戦

千代丸とは幕内で1勝3敗と合口の悪い相手だ。

(取り口)朝之山は、立ち合い踏み込み、相手のもろ手突きにも構わず前に出て一気に突き出した。             (決まり手)突き出し 朝之山 5勝1敗

 

  

⑺ 7日目 湘南の海戦

朝之山、湘南の海ともに四つ相撲の力士で、得意手は朝之山右四つ、湘南の海左四つのケンカ四つである。

(取り口)両者立ち合い直ぐに四つに組む。朝之山は相手十分の左四つ右上手を許し、巻替えの応酬となる。朝之山は上手を取れないまま寄った土俵際で、湘南の海の上手投げに身体は傾けながら残し、左下手投げを打ち返して勝負を決めた。

                    (決まり手)下手投げ 朝之山 6勝1敗

 

 

朝之山は、土俵際の投げの打ち合いで顔面から落ち、しばらく立ち上がらなかったので、怪我でもしたかと心配したが、軽い脳震盪だったようだ。右目下に大きな擦り傷を被った。

 

朝之山は、「手を付いたら同体、手を付かずに顔から落ちて良かった。コロナ前なら手を付いていた気がする。絶対に負けたくない気持ちがあった」とこの相撲を振り返っている。

 

⑻ 中日 欧勝馬

大阪は、朝之山が近大の学生時代を過ごしたところで、第二の故郷だ。大阪で応援して下さる方々へ感謝の気持ちを伝えたくて、中日から土俵入りの化粧まわしは、大阪後援会から贈られた「大坂城」をデザインしたものにしている。

 

 

 

(取り口)朝之山は、立ち合い後圧力をかけて押し込むと、いなしてからはたき込みを決めた。            (決まり手)はたき込み 朝之山 7勝1敗

 

 

⑼ 9日目 狼牙(ろうが)戦

(取り口)両者右の合四つなので、立ち合い後すぐにお互い右差し左上手の形になるが、ここで朝之山は一気に左からの上手投げで狼牙を下した。

                (決まり手)上手投げ 朝之山 8勝1敗の勝ち越し

 

 

⑽ 10日目 炎鵬戦

朝之山は、動きの激しい小兵力士とは取りにくいのだろう、幕内での対戦は1勝1敗だ。

(取り口)立ち合い後、炎鵬が中に入ろうとするのを、朝之山は前さばきで入れさせない。炎鵬は左の前まわしを掴んで頭を朝之山の胸につける。炎鵬は引いたり回り込んだりして勝機を窺うが、朝之山は炎鵬の身体を起してじわじわと土俵際へ寄っていき寄り倒した。               (決まり手)寄り倒し  朝之山9勝1敗

 

十両優勝争いは、この時点で 1敗:朝之山、逸ノ城  2敗:豪ノ山、落合

              

 

⑾ 11日目 豪ノ山戦

(取り口)立ち合い豪ノ山は朝之山の胸にぶちかまし、がむしゃらに寄っていくが朝之山は下がらない。ここで朝之山は左上手でまわしを深くしっかり取る。豪ノ山が下手投げで振って身体を低くして寄っていくと、朝之山は土俵際で逆転の上手投げで豪ノ山を下した。             (決まり手)上手投げ  朝之山10勝1敗

 

優勝争いはこの日逸ノ城が落合に勝って、朝之山とともに1敗  豪ノ山、落合は3敗

 

 

⑿ 12日目 王鵬戦

初日以来2度目の幕内の土俵に上がる。本日の対戦相手「王鵬」は、昭和の大横綱大鵬」の孫で、朝之山が6場所謹慎休場している間に、入れ替わるように新入幕している前頭15枚目の幕内力士だ。

(取り口)立ち合い朝之山は右を差し得意の形になりかけたが、自ら抜くように右腕を引いた。そこへ王鵬が右を差しもろ差しとなり一気に攻め立てる。朝之山は防戦一方で寄り切られた。          (決まり手)王鵬の寄り切り  朝之山10勝2敗

 

優勝争いは、逸ノ城1敗、朝之山2敗 豪ノ山3敗となり、朝之山は逸ノ城と並んでいたが一歩後退する。

 

私は対戦前まで、朝之山は王鵬に対しては、比較的に簡単に自分の形になって勝負を決めることができると思っていた。しかし実際は、朝之山は自分でも分からないまま、右手を引いて墓穴を掘ってしまった。朝之山は自分の不甲斐なさを深く悔やんでいた。

 

 

⒀ 13日目 天空海(あくあ)戦

(取り口)立ち合い朝之山は、相手に踏み込まれたが、右四つで組み止める。胸を合わせて寄ったが押し返された。さらに圧力をかけて前に出て、朝之山の右腕をたぐって反撃にでようとしている天空海を強引に押し倒した。

                     (決まり手)押し倒し 朝之山11勝2敗

 

 

優勝争いは、1敗の逸ノ城と、2敗の朝之山の2者に絞られた。

 

 

⒁ 14日目 島津海戦

(取り口)立ち合い朝之山は踏み込み、島津海が巻替えにくるところを出ていく。島津海はもろ差しになるが、朝之山は豪快な上手投げで決める。  

                    (決まり手)上手投げ 朝之山 12勝2敗

 

優勝争いは、この日逸ノ城が炎鵬に勝って13勝1敗としたため、明日千秋楽で決着することとなった。

 

 

⒂ 千秋楽 落合戦

落合は、先場所19才で幕下付け出しでデビューして、全勝優勝した。幕下在位一場所で十両に昇進し「令和の怪物」と呼ばれている。今場所も14日目まで10勝4敗の好成績だ。

(取り口)立ち合い落合は、身体を丸くして朝之山の胸にぶつかっていく。朝之山はまわしは取れずに寄っていくが、落合に残され逆に攻め込まれて両差しを許してしまう。なおも落合は攻め立ててもろ差しから一気に寄りに行くが、朝之山こらえる。しばらく両者動きが止まってから、落合が朝之山の身体を吊り気味に左に振る。この時朝之山は右上手を取って逆転の上手投げで落合を土俵に転がした。

                    (決まり手)上手投げ 朝之山13勝2敗

 

朝之山は絶体絶命の大ピンチから、良く辛抱して逆転した。落合も負けはしたが、相撲の上手さをいかんなく発揮した好勝負だった。

 

十両優勝争いは、逸ノ城が勝って14勝1敗として優勝した。

 

   

春場所の朝之山は13勝2敗で、目標の十両連続優勝はならず、準優勝に終わった。よくやったとは思うが、15日間の取組を見ていると、課題も目に付いた。立ち合いの攻めは良い時もあるが、差しで争いに負けたり、相手十分の形になってしまう事が多々見られた。

 

来場所は幕内に復帰できそうであるが、幕内では更に相撲の上手い力士が多いので、稽古で「鋭い立ち合いの技」を磨いて欲しい。朝之山は毎回その日の取り口の悪いところを反省しているので、自分が一番よく知っているはずだ。来場所の更なる飛躍を期待する。