夏場所の朝之山

5月1日に、大相撲夏場所の新番付が発表された。私が贔屓(ひいき)にする朝之山は、春場所十両筆頭で13勝2敗準優勝の好成績だったので、前頭10枚目前後に昇進できるのではないかと期待したが、結果は東前頭14枚目だった。

 

番付決定には、その時に降格する上位の力士数とかの「運」も作用するので、仕方ないことだが、朝之山は29才なので、早く三役、大関に戻る為にはもう少し上に行って欲しかった。しかし前頭14枚目に決まったからには、この番付で一番でも多く勝ち星を連ねて欲しい。

 

春場所の朝之山は、13勝したものの、朝之山本来の「右を差して左上手の右四つ」で勝った相撲は少なく、相手に先に差されたり、相手十分の形で受け身の取組が多かった。このような相撲では、幕内に昇進しても不安材料が多く活躍が懸念された。

 

そのことは朝之山本人がよく理解しており、「春場所のような相撲を取っていたら、幕内では通用しない。もっと踏み込みを早くして、相手にスキを与えないようにして、自分の形にしなくては」と反省し、春場所後の稽古では、早く、低く、強く当たることを心掛けた。

 

幕内復帰が確実となった朝之山は、春の巡業に積極的に参加するようになる。巡業では幕内上位力士との「申し合い」※で関脇の霧馬山、豊勝龍、若元春らに指名され、稽古とは言え彼らに勝ち越すほどの力も付けていた。

 

※申し合い:仕切りを入れた取り組みを行い、勝った力士が土俵に残って次の相手を指名する勝ち抜き戦の稽古

 

東京に帰ってからも、他の部屋に出稽古に行ったり、他の部屋の力士が朝之山の高砂部屋に出稽古に来たりして、充実した稽古を積み重ね夏場所に備えていた。

 

 

そして、令和5年5月14日、大相撲五月場所(夏場所)が開幕した。夏場所は4場所連続休場していた横綱照ノ富士が復帰し、久し振りに横綱の土俵入りが行われ、横綱大関が揃って出場する本来の正常な場所となった。

 

コロナの扱いも2類から5類になったことで、国技館の入場制限が無くなり、声を出しての観戦もOKとなり、大相撲はコロナ前の状態に復活した。相撲人気も大変なもので、夏場所のチケットは、千秋楽まで売り切れとのことだ。

 

夏場所は、朝之山にとって特別な場所だ。4年前は平幕で優勝し、2年前は大関で不祥事を起こして6場所の出場停止処分を受けた場所だ。「ここからが本当の勝負。今場所は最低でも10勝、後は一つでも勝ち星を増やして優勝争いに加わっていきたい」と朝之山は開幕前に抱負を語った。

 

朝之山の人気は高く、土俵入りで朝之山が土俵に上がる時は、一番の歓声が上がる。取組になると場内至る所で、朝之山名入りのタオルが声援とともに揺れる。ありがたいことだ。

 

 

 

朝之山の十五日間を見てみよう。

 

⑴ 初日 千代翔馬

(取り口)朝之山は立ち合い左上手を取れなかったが、右を差して寄り切り、9場所ぶりの幕内初日を盤石の白星で飾った。     (決まりて)寄り切り 朝之山 1勝

 

⑵ 二日目 妙義龍戦

(取り口)両差し狙いの妙義龍に差し勝ち、右をねじ込み左上手を引き付けて前に出て寄り切る。万全の相撲。          (決まりて)寄り切り 朝之山 2勝

 

⑶ 三日目 琴恵光戦

(取り口)朝之山は左上手が取れないまま右四つで寄っていき、土俵際で琴恵光に突き落とされた。行事軍配は琴恵光に上がったが、物言いがつき協議の結果「先に琴恵光の身体が土俵の外に飛んでいた」と判断され、行司差し違えで朝之山の勝利となった。

                      (決まりて)寄り切り 朝之山 3勝

 

<朝之山のコメント>「上手を取れないまま右を差して出ていく悪いクセがでて、全然ダメ、勉強不足 アホですね」

 

⑷ 四日目 王鵬戦

(取り口)立ち合いすぐに右を差し一気に前に出て、先場所幕内の土俵で敗れた相手に完勝した。                (決まりて)寄り切り 朝之山 4勝

 

⑸ 五日目 碧山戦

(取り口)立ち合い踏み込み、まわしを取らずに圧力をかけて大きな碧山を押し出した。                    (決まりて)押し出し 朝之山 5勝

 

場所前の稽古の成果が出ているのか、序盤戦は鋭い踏み込みで相手を圧倒している。5連勝で順調な滑り出しだ。

 

相撲解説者の舞の海は、この日のラジオの番組で朝之山について「この番付の位置では、敵なしですね。立ち合いの鋭い当たりから右を差して寄っていくという形というのは、本当に美しい相撲をとっていますね。元大関で優勝経験もあり、もしかしたらいけるかもしれませんね」と優勝の可能性を匂わせた。

 

⑹ 六日目 水戸龍戦

(取り口)立ち合い直ぐに右を差し、左上手も引いて出てそのまま寄り切る。

                       (決まりて)寄り切り 朝之山 6勝

 

この日引退を発表した栃ノ心について朝之山は「巡業で指名してもらい稽古させてもらって今がある」と感謝していた。

 

⑺ 七日目 一山本戦

(取り口)鋭い踏み込みで、右を押っ付け※て前に出て、そのまま押し出す。

※押っ付け:相手の差し手を封じるために、相手が差しにきたり突っ張たりした時に自分の肘を自分に脇に押し付け、手は相手の肘にあてがってしぼりあげる。

                      (決まりて)押し出し 朝之山 7勝

 

⑻ 中日 北青鵬戦

(取り口)北青鵬が立ち会い左に飛んで朝之山の後ろまわしをとる。朝之山も左の前まわしを取って引き付けながら前に出たが、北青鵬に下手投げを打たれて土俵に転がされた。             (決まりて)北青鵬の下手投げ 朝之山 7勝1敗

 

<玉ノ井親方(元栃東)の解説>「朝之山は右四つ十分の自分の形になったとはいえ、真っ正直に正面に出ようとしたのが失敗だった。相手は2mを超える長身で、懐が深くまわしの位置も高い。相手に力が伝わらず押しきれなかった」

 

八角理事長のコメント>「2m4㎝の長身で、棒立ちでまわしをとるのは、今の相撲では規格外、(朝之山に限らず)力士は慣れていないから、まわしが高くて引き付けられない。稽古で覚えるしかない」

 

<朝之山のコメント>「がっぷり四つにならないように強く当たろうとしたが、立ち合い変化され、先に上手を取られてしまった。これが敗因。負けは負け、切り替えていくしかない」

 

私はこの取り組みを観戦し、朝之山が自分の形になりながら、土俵に転がされてしまったことに、非常に大きなショックを受けた。朝之山も凄く落ち込んでいると思ったが、意外とそれほどでもないと安堵した。

 

中日を終わって、全勝の照ノ富士を1敗の朝之山と明生が追う展開となった。

 

⑼ 九日目 竜電戦

(取り口)朝之山は右四つで竜電に左まわしを許して頭をつけられたが、巻き替えながら前に出て最後は左上手も取って寄り倒した。

                    (決まりて)寄り倒し 朝之山 8勝1敗

 

昨日の敗戦を引きずらず、力強い相撲で勝って勝ち越し安心した。この日、明生が照ノ富士に勝ったので、1敗で照ノ富士、明生、朝之山の3人が並んだ。

 

⑽ 十日目 平戸海戦

(取り口)立ち合い朝之山は右差しを狙ったが果たせず、すぐさまその右からはたき込んだ。             (決まりて) はたき込み 朝之山 9勝1敗)

 

優勝争いは1敗の照ノ富士、朝之山を、 2敗の霧馬山、明生、北青鵬が追う状態で夏場所は終盤を迎える。この時点で朝之山が優勝争いに名を連ねていることは大変喜ばしい。

 

⑾ 十一日目 明生戦

(取り口)立ち合い朝之山は左上手を取るが、明生に両差しを許して一気に土俵際まで寄られる。ここで逆転の突き落としを放ち辛うじて勝った。

                   (決まりて)突き落とし 朝之山 10勝1敗

 

<朝之山のコメント>「相撲内容が悪い。自分の相撲じゃない。最後は思い切った結果(勝てた)。左の上手は取ったけど、右は差し負けた。そこは悔しい。切り替えて自分の相撲を取りたい」

 

11目が終わって、1敗は、照ノ富士、朝之山 2敗は、霧馬山に絞られた。

 

⑿ 十二日目 大栄翔戦

(取り口)朝之山は、立ち合いから突き押しの大栄翔に防戦一方になり、押し出された。               (決まりて)大栄翔の押し出し 朝之山10勝2敗

 

<朝之山のコメント>「踏み込んだが、相手が下から攻めてきた。まともに受ける形になってしまった。自分の相撲ができず、足も運べなかった」

 

去年三段目から再スタートして、初めての本格的な「突き押しの力士」と対戦して、まだ相撲勘が戻っていないのだろう。今後の課題だ。、

 

朝之山が敗れ、照ノ富士が勝ったので、1敗照ノ富士、2敗霧馬山、朝之山となった。

 

⒀ 十三日目 照ノ富士

十一日目に優勝争いのトップを横綱照ノ富士と朝之山が並走していたので、両者の直接対決が十三日目に組まれた。朝之山が横綱と対戦するのは、1161日ぶり、結びの一番で相撲を取るのは、739日ぶりだ。

 

(取り口)立ち合い朝之山は、頭から強く当たって、左を押っ付け横綱を後退させたが、相手に左手を抱かえられ、前に出る力を利用した照ノ富士の小手投げに屈した。

               (決まりて)照ノ富士の小手投げ 朝之山 10勝3敗

 

<朝之山のコメント>「朝稽古で何度も練習した右ハズ、左おっつけで、横から攻めようとしたが、左を差してしまったのが敗因」

 

優勝争いは、照ノ富士1敗、霧馬山2敗、朝之山3敗となった。

 

⒁ 十四日目 正代戦

(取り口)朝之山は立ち合い後一気に攻め込み、土俵際でこらえる正代を寄り倒した。         

                   (決まりて)寄り倒し 朝之山11勝3敗

 

この日横綱照ノ富士が霧馬山を破って、今場所の優勝が決まった。

 

⒂ 千秋楽 劒翔戦

(取り口)立ち合い朝之山は上手を取って寄っていくが、上手を切られて土俵上で四つに組んで動きが止まる。劒翔が出てきたところをすかさず上手を取って、万全の形となって寄り切った。           (決まりて)寄り切り 朝之山 12勝3敗

 

  

夏場所の朝之山は、12勝3敗の成績で終わった。三賞の敢闘賞候補にもなったが、大関経験者と言うことで見送られた。場所前に目標とした二桁以上も達成でき、優勝争いにも十三日目まで加わり場所を盛り上げ、良く活躍できたと思う。春場所の課題だった立ち合い後の踏み込みも、稽古の成果が出たのか鋭くなって、完勝の相撲が多かった。夏場所は合格と評価したい。

 

さて来場所は、番付も上がって、横綱大関、三役を始め幕内上位の力士との対戦が多く組まれることが予想される。私は照ノ富士以外の四つ相撲の相手には余り心配していないが、突き押しの力士(貴景勝、大栄翔等)や動き回ったり小兵の力士(翔猿、宇良、翠富士等)に確実に勝てるような研究や稽古が必要と思う。

 

それから、まだ一度も勝っていない照ノ富士に勝たなくては、大関横綱にはなれないと思って稽古に励んで欲しい。