ドラマ「悪女(わる)」

ドラマ「悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った~(全10話)」のCS再放送を三日かけて一気見した。

 

 

これは、2022年春に日本テレビ系で放送されたジョブエンターテイメントドラマだ。

 

悪女(わる)」というタイトルは、コメディータッチの本作とはミスマッチと思われるが、「逆境を乗り越えて目的を達成するには、良い子だけじゃだめで『時には悪女(わる)にもなるのよ』と主人公が先輩から言われたアドバイスが由来とのことだ。

 

そして副題「働くのがカッコ悪いなんて誰が言った」は、同じく先輩から言われた「暑苦しく働くのは青臭い?でも一生懸命働くってカッコいいじゃん」に由来する。

 

原作は、深見じゅんが1988~1997年に「BE・LOVE](講談社)に連載したコミックで、平成時代の大手商社を舞台に主人公が女性の「生きずらさ」「働きずらさ」をぶち壊して乗り越えていく姿を描いており、1992年には、石田ひかり主演でドラマ化されている。

 

今回のドラマはそのリメイク令和版である。時代は平成時代より男女平等は進み、上司と部下の関係性、リモートワークの導入等働き方は大きく変わったが、「働く」ということの悩み、葛藤、喜びは変わらない。そこが令和版にも原作が活かされている。

 

物語は、三流大学を四流の成績で卒業し、就職試験にはことごとく失敗したポンコツ主人公田中麻里鈴(まりりん)が、コネでようやくIT大手企業に就職する。配属先はポンコツ故に半地下にある「備品管理課」という落ちこぼれが集まる窓際の部署だ。そこで先輩社員の峰岸雪から「あなた、出世したくない?」とそそのかされる。

 

麻里鈴は、峰岸から「出世百か条」を伝授され、彼女のアドバイスと持ち前の明るさで徐々に上階の華やかな部署に移動=出世していくが、いつも雑用係のような立ち位置である。

 

そこでもがんばるができない、しかしめげない。底抜けに明るくてポジティブ思考で、周りから雑に扱われてもあっけらからんとしていて、めげずに周りを巻き込んでサバサバと仕事をしていく。そこで職場の問題を解決し、自分らしく仕事ができるように変革をもたらす。

 

麻里鈴が出世したいのは、一目ぼれした花形部署に所属するT.O.さんを想い、彼に近づきたいからで、目的は彼と一緒に仕事をすることだ。

 

キャストは、主人公田中麻里鈴に本ドラマが初主演の今田美桜(みお)、先輩峰岸雪に江口のりこ、T.O.さんに向井理

 

今田美桜は新人らしく溌溂としていて、ドラマ主人公のキャラクターにピッタリのはじける演技で好感が持てる。笑顔のバリエーションが豊富で、縦横無尽に変化する麻里鈴の表情にはつい引き込まれてしまう。驚いた時などに丸くするその目は本当にまん丸だ。

 

余談だが、今田美桜は今年4月から始まるドラマ「花咲舞が黙っていない」第三シーズンの主役を務め(第一、第二シーズンは杏)、来年春のNHK朝ドラのヒロイン役を射止めた今売れっ子の若手女優である。

 

先輩峰岸役は、近年大活躍の江口のりこ、そのクールでそっけない素振りの演技は、いかにも江口のりこといった感じで適役だ。麻里鈴との関係性も良い塩梅(あんばい)に演じている。憧れのT.O.さん役の向井理も、このドラマには申し分のないほどのはまり役だ。

 

第二話では、平成版「悪女(わる)」に主演した石田ひかりが人事部の課長・夏目役で出演している。夏目は平成版「悪女」の田中麻里鈴がそのまま働き続けた姿にも見えてくる。

 

石田が演じる夏目は、「過労死するほど働いて、男性社員に気を遣い、決して出しゃばらず、酒の席では花を添える役割に徹する。そうやって男性以上に頑張っても結局年下の男性社員に出世の先を越され、悔しい気持ちを抑えて会社に居続けるしかない。」という役どころだ。

 

本ドラマは、「働く」ことに関しての、様々な問題をテーマにし、ドラマに組み込んでいる。

 

男女雇用機会均等法成立後の日本の職場の現状 / 政府は「202030」と2020年までに指導的地位に占める女性の割合を3割とする目標を掲げたが達成できず断念した。

・コロナ年新入社員、この世代は大学も入社後もリモートワークで過ごしてきたので、対面の会議や、営業のような対面での仕事が苦手。

・働く目的、働き甲斐

・男女/ジェンダー平等、社会全体が男女平等になっているか?男女格差、女の敵は女

しらけ世代が定年を迎え、団塊ジュニア世代、ゆとり世代といつの時代にも常に新人類と呼ばれる若い世代との接し方、扱い方が問われる。

・社内政治、派閥、権力と支配、権力とその影響はいたるところに存在する。

・女性の活躍の名の下、仕事と家庭の両立は難しい。

・女性の出世をはばむ「ガラスの天井」という言葉があるが、仕事の出来る人、大黒柱に縛られる男性たちには「ガラスの地下室」という言葉がある。

 

先輩の峰岸には、社内の女性管理職を5割にすると言う野望(通称JK5計画)があり、ドラマ終盤で峰岸がJK5推進室長に就任し、計画がスタートする。麻里鈴は管理職をめざす女性のための育成プログラムを担当する。

 

そして半年後、女性社員の育成は、ロールモデル(他の従業員の手本)が峰岸ではハイスペック過ぎて女性管理職候補がついていけない。それに男性社員の反発や、女性社員の中には、そもそも管理職を望まない社員が多くいて、JK5計画自体が頓挫しかける。

 

最後に峰岸が、全社員を前にJK5のこれからについて語る。

・管理職を望まない人には、専門職を極める道をつくる。

・長時間勤務ができない、地方勤務ができない、やりたい仕事ができない、そんな様々なできないことに一つ一つ向き合う。

・女性の為だけではない全社員が働きやすくなるそんな改革が必要。

・年下の上司、性別の異なる上司とうまくやれないなら、上司を自由に選べるようにする。

・子供がいる社員の時短勤務のしわよせが、男性や独身女性にまわって不公平になるくらいなら、いっそ全員を時短勤務にしたらよい。

 

その後、「JK5」は、目的を女性管理職アップから、働き方改革全般の推進に変更して、ドラマは幕を閉じる。

 

見終わった感想は、本ドラマのタイトルや作りがコメディータッチであるとは裏腹に、現代の働き方について、真摯に向き合っている姿勢が感じられ好感が持てた。久し振りに爽快で面白いドラマを見た。