ラジオ深夜便

夜の日課は、11時前に歯磨きをして、携帯ラジオを持って床に就く。ベッドで11:05からのNHKラジオ深夜便を聞きながら目を閉じる。ラジオをつけたまま眠りに落ち、そのまま眠ってしまうことがほとんどだが、ラジオの話が面白くて1時頃まで聞き続けることもある。

 

毎晩の深夜便で良いなと思うのは、① 0時前に全国各地の天気予報と翌日の日の出の時刻を告げること、② 0時のニュースで「日付が変わって、〇月〇日〇曜日のニュースをお伝えします」と告げること、 ③1時前に世界の各都市の天気と最高最低気温の予報を告げることだ。

 

①は、日の出時刻が1か月で30分程変化し、月日の経過が実感できる。夏至の前の今時の札幌の日の出は4時前で3時台から明るくなるというのも「へ~!」と思う。それと狭い日本ではあるが、札幌と那覇では日の出時刻が1時間40分も違うのが面白い。

 

②は、毎日がこの時刻を持って新しく始まるという新鮮な気持ちになる。「日付が変わって」という言葉に、時の流れの神秘性を実感する。

 

③は、現在海外に知人がいるわけではないが、ニュースで話題の地や、世界各地の今の天気気温を知ることができて興味深い。

 

 

大抵は0時前に眠ってしまうので、よく聞く放送は、11時台だ。その中で私のお気に入りは、

1⃣ 第二月曜日放送の「深夜便かがく部 歌う生物学」  東工大名誉教授で生物学者本川達雄さんのお話。 

 

本川さんの一般向け本「ゾウの時間 ネズミの時間」によると哺乳類動物の一生の間の心拍数はサイズによらず同じ(15億回)で、動物の時間(寿命)は体重の1/4乗に比例するということだ。即ち、体重がネズミの10万倍のゾウの時間は、ネズミより18倍ゆっくり進む。

 

放送では、動物がおしっこをする時間も、サイズによらず同じ(40秒?)とも言っていて興味深かった。

 

本川さんは、話の最後にその話にちなんだ歌(ご自身の作詞作曲)を歌って締める。何ともユニークな先生だ。

 

2⃣ 第三月曜日放送の「深夜便かがく部 不思議な植物園」  ファーブル昆虫館館長奥本大三郎さんのお話

 

奥本さんは、昆虫館の館長を務めるほどの虫好きであるが、フランス文学者でもある。植物の不思議や生態を分かりやすく話してくださる。

 

3⃣ 第二火曜日放送の「深夜便ぶんか部 文豪通信」  手紙文化研究家 中川越さんのお話

 

夏目漱石芥川龍之介太宰治等の文豪の手紙を紹介してくれる。私的な書簡なので、文豪の意外な一面を知ることができる。

 

4⃣ 第一木曜日放送の「令和つれづれ草」元新聞記者の稲垣えみ子さんのお話

稲垣さんの日常のライフスタイルを、ウィットに富んだ言葉で語ってくれる。

 

5⃣ 毎週金曜日(関西発)放送の「ぼやき川柳」 毎週決められたお題に沿って、全国の一般リスナーから寄せられた川柳を、川柳作家の大西康代さんが選んで、当日のアンカーと二人で発表する。

 

投稿は毎週1200~1500句、その中から、35句位が読み上げられる。クスっと笑ってしまったり、考えさせられる句も多く寄せられ心和む。6月18日のお題は「目が覚めるの『覚める』」で私のイチオシは「朝食の準備ができて、妻目覚め」

 

6⃣ 第二第三土曜日放送の「深夜便ビギナーズ」 第二土曜日は、当日のアンカー森田美由紀さんが、芸人の藤井隆さんと、第三土曜日は、アンカー後藤繁栄さんが歌手の早見優さんと11時台、0時台地と2時間トークを繰り広げる。

 

藤井さん、早見さんは50代のアラフィフ世代なので、年配のリスナーの多い深夜便に若い息吹を入れたいとの番組スタッフの思惑で生まれたのだろう。

 

二組ともお互いに相性が良く、いつも話が面白く弾む。一応トークには事前にテーマが設定されていて、リスナーから送られたお便り、メール等を紹介しながら進行する。

 

森田-藤井組の時は、テーマに入る前に食べ物の話題で盛り上がることが多い。森田さんは札幌出身で、仕事でも北海道へ行くことが多いらしく、旬のアスパラの美味しさとか、北海道の食材の素晴らしさを熱く語る。藤井さんも食べることが大好きみたいで、自分で作った変わったレシピの紹介等もして興味深い。

 

後藤-早見組は、後藤さんのダジャレは今も健在である。後藤さん早見さん共、お便りを読んだ後、その話題にちなんだ自分のプライベートなことを、大らかに話すことが多く、二人の人柄が偲ばれ、好感が持てる。

 

7⃣ 最終土曜日放送の「謎解きうたことば」  日本語学者の金田一秀穂さんが、歌謡曲等の作詞家にインタビューしてその歌詞の出来た経緯、背景、込められた意味、裏話を訊きだす録音放送。最近では、喜多条忠神田川赤ちょうちん)、荒木とよひさ(つぐない、時の流れに身を任せ他テレサテンの曲)の回が面白かった。

 

蛇足だが、最終土曜日のアンカー柴田祐規子さんは、現役のアナウンサーで、Eテレ新日曜美術館でキャスターを務めている。アンカーの中では、一番お若いのではと思う。

 

 

先にも記したように、大抵は12時前に眠ってしまうのだが、深夜便は1時台:「深夜便アーカイブス」他、 2時台:「ロマンチックコンサート」(海外音楽)、3時台:「にっぽんの歌 こころのうた」、4時台:「明日へのことば」と朝の5時まで続く。

 

ラジオを付けっ放しにして眠って、しばらくして目が覚め、その時の放送が面白くてそのまま聞き続けることもある。

 

かつて、1時台に目を覚ました時に、女性アナウンサーによる短編小説の朗読が流れていた。

 

それは、加納朋子さんの「モノレール猫」と言う短編小説だ。小学生が猫の首輪に挟んだ手紙を通して見知らぬ小学生と文通をする。猫は車に轢かれて死んでしまい、文通は途切れる。その後大人になった小学生は・・・と言う話だ。

 

途中から聞いたので前の方が分からず、気になってその本を探し購入して読んだ。

 

 

最近では、6月8日の1時台に目を覚ました時、元盲学校の先生 藤野高明さんのインタビューが流れていた。

 

藤野さんは7才の時に不発弾の爆発事故で両目の視力と両腕を失う。その後13年間、勉強をすることができなかったが、20才で盲学校に入学、唇で点字を読みながら、社会科の教師をめざして勉強する。色々なな苦難を経て大学へも進学して教師になったヘレンケラーのような人だ。

 

世の中には、こんなハンディを背負いながらも、果敢に挑戦している人もいるのだと感銘を受けた。

 

 

それから、6月14日の1時台には、ラジオから流れる「ひんがしの のにかぎろいの たつみえて かえりみすれば つきたたぶきぬ」の和歌の朗誦で目が覚めた。

 

「大人の教養講座 はじめての万葉集歌人 佐々木幸綱さんの講義だった。

 

柿本人麻呂のこの和歌「東の野に炎の立つ見えて かへり見すれば月傾きぬ」を中学か高校の国語で習った時、スケールの大きい情景がパッと目に浮かび、何とま~分かりやすい和歌のことよと思ったものだ。

 

佐々木さんの解説によると、炎(かぎろい)は曙の太陽の光のことで、現代語訳は「東の空は曙の太陽の光が差してくるのが見え、振り替えって西を見ると月が西の空に沈んでいこうとしている」と太陽と月を配置した非常にスケールが大きく、広大な宇宙を詠みこんだ雄大な歌だ。

 

この歌が詠まれたのは、旧暦の11月、今の暦では12月の冬至の頃で、柿本人麻呂軽皇子(かるのみこ:後の文武天皇)の狩りに同行して、奈良県の阿騎野という所に泊まって、翌朝夜明け時に、凍てつく空にさしてくる曙の光と、沈みゆく神々しい月を見て詠んだ歌と題詞がついている。

 

阿騎野に泊まった柿本人麻呂を始めとする軽皇子の従者一行は、天武天皇皇位を継ぐはずだった軽皇子の父親・草壁皇子(くさかべのみこ)が、27才の若さで亡くなったことを悲しみ、草壁皇子を偲んでいた。

 

そして朝になり、東に曙の太陽を望み、振り替えった西に沈みつつある月を見た柿本人麻呂は、月を天皇になることなく亡くなった父親草壁皇子に、太陽を父の遺志を引き継ぎ世を治めようとする幼い軽皇子に見立ててこの歌を詠んだとされる。

 

すなわち柿本人麻呂は、太陽と月の情景歌の中に、月が沈むかのように父である草壁皇子はお隠れになったが、その後を継ぐ軽皇子が太陽となって、この世を照らそうとしていると言っている。

 

佐々木さんは又、この歌にちなんだ行事が今でも行われていると紹介された。それは奈良県の「かぎろいの丘」という所に、冬の寒い朝に登って曙の「かぎろい」を見てこの歌を鑑賞するというものだ。佐々木さんも一度参加したそうだ。