「重要文化財の秘密」展

4月に放送されたNHK-Eテレの「日曜美術館」で「近代の重要文化財」を特集した番組を見た。これは、現在東京国立近代美術館で開催中の「重要文化財の秘密」展の見どころを紹介したものだった。

 

明治以降の重要文化財は、発表された当初は問題作として扱われたり、物議を醸し出したものが多かったが、時代とともに価値の基準、評価が変わり、重要文化財に指定されるまでなったという。

 

テレビでは、詳しいことはあまり分からなかったが、狩野芳崖の「悲母観音」、横山大観の「生々流転」、高橋由一の「鮭」、岸田劉生の「麗子微笑」等、美術の教科書に載っている有名な作品を展示している展覧会が、5月14日まで開催されていることを知り、久しぶりに美術館に足を運んで、本物を肉眼で見てみるかという気持ちになった。

 

行く前にこの展覧会のことを調べてみると、これはどうやら思ったより凄い展覧会だということが分かった。

 

まず、「重要文化財」とは1950年に制定された文化財保護法に基づいたもので、「建物、絵画、彫刻、工芸品などの内、各時代の遺品の中で、制作優秀かつ我が国の文化史上貴重なもの」と指定されたもので、その中でも特に重要と指定されたものが国宝だ。

 

2023年3月現在、重要文化財は13,377件であるが、明治以降の絵画、彫刻、工芸はわずか68件で、国宝は1件もない。そのうち51件の作品が今回の展覧会で展示されている。すなわち、明治以降には国宝がないので、明治以降の最高傑作の絵画、彫刻が一堂に展示されているのだ。

 

今回の展覧会は、東京国立近代美術館の70周年記念展として企画され、美術館の意気込みも大変なもので、展示作品の全てを「重要文化財」で通す豪華で贅沢な展覧会だと知った。

 

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今年のゴールデンウイークは、3年間のコロナ自粛から解放され、旅行や帰省の人出もほぼコロナ前の水準に戻ったようだ。私の連休の過ごし方は、前半の5月3日までは、いつものテニス、卓球で埋まっていたが、後半は予定が無かったので、みどりの日の4日に美術館に行くことにする。

 

この日は朝から五月晴れで、絶好の行楽日和に見舞われた。我が家から都心までは電車で2時間程で、展覧会は9時半開場なので、北の丸の美術館へは、7時頃家を出れば十分であるが、早朝の皇居周辺をブラブラ歩くのもいいかなと6:10に家を出た。

 

地下鉄大手町駅で降りて、皇居の大手門まで行くと、お堀と石垣と皇居の緑が早朝の光に照らされて、目に飛び込んできた。内堀沿いの歩道を竹橋方面に向かう。外国人も含めたスタイルの良いランナー達が気持ちよさそうにに走っている。

 

8:30 東京国立近代美術館到着。

 

 

スライド式の長い門はまだ開いておらず、門の前で中年の男性がスマホを見ながら立っていた。私は2番だった。開門後当日券売り場前に並ぶ。発売時には100名程となった。

 

入場券は、お目当ての「重要文化財の秘密」と、「MOMAT」の2種類販売されている。「MOMAT」とは、近代美術館所蔵の作品を展示している会場入場用だ。「MOMAT」券は500円であるが、「重要文化財の秘密」券(1800円)があれば、入場できる。

 

開場と同時に入場する。今日は連休中でもあり、混雑が予想されたが、早い時間でもあり普通の混雑状況だったようだ。写真撮影はNGマークの付いた作品以外は、フラッシュ撮影を除き可能なので撮らせてもうことにする。

 

私の印象に残った作品を並べる。

 

1⃣ 狩野芳崖 「悲母観音」

 

 

入場して最初に迎えてくれる作品だ。明治以降の作品として初めて重要文化財に指定された。真近にしっかりと作品を見る。観音様と赤子の描写が素晴らしい。観音様の表情に心穏やかになる。

 

2⃣ 横山大観 「生々流転」

 

 

 

霧の滴り(ししたたり)が渓流になり、川となり、人里や丘や山を越えていくうちに周りの河川を集めて、大河となって大海に注ぎ、最後は飛竜となって天に昇るという水の一生を40mの巻物に描いた大作である。

 

墨のぼんやりとした筆致が「朦朧体(もうろうたい)」なのであろうか?この作品を全部広げて展示する機会は非常に少ないと言うことだ。

 

 

3⃣ 高橋由一 「鮭」

 

 

今回の展覧会のポスターにも採用されている、超有名な油絵である。実物を見たのは始めてだが、写真の方が写実性が優れていると感じた。

 

 

4⃣ 岸田劉生 「麗子微笑」

 

 

これも、誰でも知っている絵画だ。この絵を見る度に少女なのに「恐い」感じがしたが、実物を見ても同じだった。

 

 

5⃣ 原田直次郎 「騎龍観音」

 

 

本作は、陰影や遠近法を取り入れたリアルな描写で描かれ、制作当時は仏画としては斬新な手法だったので、まだ世の中の評価は低かったらしい。今見る分には何の違和感も無く、スケールの大きな傑作に見える。

 

 

6⃣ 青木繁 「わだつみのいろこの宮」

 

 

古事記の海幸彦・山幸彦神話に基づく作品で、山幸彦が無くした釣り針を捜しに海底の神殿を訪ね、そこで海神の娘の豊玉姫と出会うシーンを描いたもの。

 

青木は潜水具を着て実際に海に潜って海底のイメージを考証して作り上げたが、発表時の展覧会で選者の評価が分かれ、1等にはならなかった。時を経て「明治浪漫主義」の代表作として評価され重要文化財に指定された作品である。

 

下から気泡が上がっていく様子がリアルに描かれている。

 

 

7⃣ 竹内栖鳳 「絵になる最初」

 

 

東本願寺から天女の天井画を依頼された栖鳳が、女性をモデルに習作に励んでいたが、その女性が急死してしまった。代わりに若い女性をモデルにしようとしたが、彼女は恥ずかしくて脱衣することを躊躇する。その様子にヒントを得てこの作品が生まれた。

 

今回初めて見たが、恥じらいだ若い女性の何とも可愛らしさが溢れていて、私のお気に入り作品になった。

 

 

8⃣ 彫刻 高村光雲 「老猿」

 

 

1893年ンシカゴ万博に出品されたもので、大鷲と格闘した直後の気迫に満ちた猿の姿を描写したものだという。

 

 

9⃣ 彫刻 新海竹太郎 「ゆあみ」

 

 

髪型や顔立ちは日本人であるが、首から下は当時(明治40年頃)の日本女性とはかけ離れた西洋人のプロポーションだ。この不思議な混在が面白い。

 

 

1階の「重要文化財の秘密」展を見終わり、ついでに4階から2階で開催されている「MOMAT」展を観覧する。「MOMAT」は先にも記したように、東京国立近代美術館が所蔵している作品の内、何点かを選んで展示している常時開設の展覧会だ。

 

おまけのつもりで見ていたら、そのコレクションの豪華さに驚かされた。

 

東山魁夷の「道」を始めとして、上村松園の「雪」、片岡球子の「渇仰」、藤田嗣治 の「五人の裸婦」等有名どころの作品が展示されている。

 

その他、梅原龍三郎草間彌生安井曽太郎セザンヌ、ボナールの作品まである。

 

その中で、特に印象に残ったのが、靉光あいみつ)の「眼のある風景」だ。これは、テレビの「日曜美術館」で何回も紹介された作品で、こうして現物を肉眼で見られることに感動した。

 

 

 

11:00に展覧会を見終わり、美術館を出る。一度も休まず見続けたので疲れた。帰りは北の丸公園を通って田安門から九段へ出た。ネットで評判の「九段食堂」で昼食をと思ったが、お店は祝日で休業していた。

 

九段下の小料理屋で、お昼のランチ「鮪漬け丼定食」を注文する。ビールを追加、昼のお酒は美味しい。帰途は九段下から地下鉄で帰った。