’24年春場所の朝之山

朝之山は、去年の名古屋場所以降、怪我が多発し、途中休場や途中出場を繰り返し、15日間全て出場できたのは、秋場所の一場所だけだった。

 

この春場所は、場所前から久しぶりに怪我も無く、腕や足から、サポーターを外しての稽古が見られるようになった。場所前に二所ノ関部屋や、荒磯部屋、佐渡ヶ岳部屋へ出稽古に行き、琴ノ若、若元春らと稽古し、本番前の調整は、ここ数場所では一番充実しているようだった。

 

今場所の番付は、西前頭筆頭、好成績をおさめれば、念願の三役復帰が期待できる。

 

1. 序盤戦 

この番付けだと、序盤の5番は1横綱4横関との総当たりとなる。3勝2敗以上で切り抜けられれば、中盤、終盤が面白くなる。

 

      対戦相手          決まり手         勝敗

初日   大関 貴景勝         はたき込み        負け

二日目  大関 琴ノ若         追し出し         勝

三日目  横綱 照ノ富士        寄り切り         負け

四日目  大関 霧島          寄り切り         勝

五日目  大関 豊昇龍         下手投げ         負け

 

<初日>

初日の相手、貴景勝は場所前首を痛め、本場所前の稽古は全然していなくて、ぶっつけ本番で出場しているという情報が入った。貴景勝には悪いが、朝之山にとってはチャンスで、勝てると予想した。だが勝負は、朝之山が出たところをはたかれ、あっけなく負けてしまった。

 

<2日目>

今場所新横関となって、最も注目されている琴ノ若が相手であったが、相撲は朝之山が相手の得意の間合いにさせず、完璧な寄りで勝った。

 

<3日目>

横綱照ノ富士戦、照ノ富士にはこれまで7連敗と一度も勝っていない。場所前、二所ノ関部屋へ出稽古に行った際、二所ノ関親方(元稀勢の里)から、「左足を外に開いて踏み込むと、横綱にあっさりと上手を許すことになる。左足の位置をコンパクトにして、上手を浅く取る事、ポイントは横綱に先に上手をとらせないことだ」とアドバイスされていた。

 

相撲は、互いに上手をさぐりながら、右四つで膠着状態になる。ほぼ同時に上手を引いたが、最初は一枚回しだった横綱にがっちりと引き直されて万全の体制で寄り切られた。

 

朝之山の敗戦の弁「当たった時に胸を合わせてしまった。そこがダメです」朝之山が将来横綱になるには、照ノ富士に勝てるようにならなければと思う。

 

<4日目>

今場所3連敗と元気がない霧島が相手。なんなく押し出して朝之山の勝。

 

<5日目>

本日の相手豊昇龍にも朝之山はこれまで4連敗している。何れも上手投げ、下手投げの投げで負けている。相撲は、朝之山が得意の右四つから前に攻め込んだところを、その勢いを逆に利用されて下手投げで裏返しにされた。

 

私はこれを見て無性に腹が立った。「朝之山は学習能力がないのか!同じ相手に、同じ決まり手で、5連敗するなんて!」

 

支度部屋では「何回同じ負け方してるんだよ、アホでしかない」と朝之山本人も自らの不甲斐なさに憤っていたようだ。

 

 

2. 中盤戦

 

     対戦相手          決まり手        勝敗

六日目 前頭二枚目 熱海富士     上手投げ        負け

七日目 関脇 大栄翔         押し出し        勝

中日  小結 錦木          寄り切り        勝

九日目 前頭筆頭 宇良                            すくい投げ       負け

十日目 前頭二枚目 明生       上手投げ        勝

 

<6日目>

若く馬力のある熱海富士が相手だが、これまで2連勝しているので、普通に取れば勝てると思った。立ち合い直ぐに右を差して左上手を引いて朝之山の形になり万全の体勢で寄り立てる。土俵際で残られ押し戻されたが、再び寄って出る。それでも熱海富士に俵を伝わって残され、更にに前に出たところを体勢を入れ替えるようにして上手投げで逆転された。

 

最初の寄りで、朝之山の万全な体勢で寄り切れなかったことは、熱海富士の力が付いてきたこともあるが、ショックだった。昨日から二日続けての逆転負けで、気分が消沈する。

 

<7日目>

この日の対戦相手大栄翔もこのところ不戦敗も含めて5連敗している相性の悪い力士だ。頭で当たって立ち合いで踏み込み、相手の突き押しを下からあてがって前進。そのまま身体を投げ出すようにして押し出した。

 

<中日>

今日は対戦成績が7勝2敗と合口の良い錦木が相手。立ち合いから右を差し左上手も引いて前に出て寄り切った。ここまでの今場所で一番の内容だった。

 

<9日目>

地元寝屋川市出身で春場所では抜群の人気力士宇良と対戦する。立ち合い宇良に潜り込まれ、左に回り込んだ相手に頭を押さえられ、もつれながらすくい投げで土俵に転がされた。

昨日やっと相星としたのに、4勝5敗と又黒星先行となる。

 

<10日目>

明生戦、立ち合い明生を強引に押し込むが残される。逆に相手に土俵際まで押し込まれるがなんとか踏みとどまり、ここでまわしを掴んで左からの上手投げで勝ち、星を5勝5敗の五分に戻した。

 

 

3. 終盤戦

 

          対戦相手        決まり手       勝敗

十一日目   前頭三枚目 王鵬       寄り切り       勝

十二日目   前頭三枚目 隆の勝      寄り切り       勝

十三日目    小結   阿炎                         突き落し       勝

十四日目  前頭十七枚目 尊富士      寄り切り       勝

千秋楽     関脇  若元春       寄り切り       負け

 

<11日目>

王鵬戦、立ち合い左の「おっつけ」で相手を横向きにして、そのまま前に出て寄り切った。始めて勝ち星が先行して6勝5敗となる。

 

<12日目>

隆の勝戦、立ち合い相手ののど輪で上体をのけ反らせ、反撃して寄ったが寄り返される。前に出続けてようやく左上手を引いて寄り切った。勝つには勝ったが、見ていてイマイチの相撲だ。本人も言っているが、当たってからの流れが悪い。星は7勝5敗。

 

<13日目>

阿炎戦、立ち合い阿炎の突きにのけ反りながらこらえて土俵際まで押し込む。阿炎が再び突き押しで前に出てくるところを突き落した。朝之山4連勝で勝ち越しの8勝5敗

 

<14日目>

14日目の取組は、13日目の取組が終了してから約2時間後の20時頃になってやっと決まった。今場所新入幕の尊富士(たけるふじ)が、絶好調でここまで12勝1敗と優勝争いのトップを走っている。2敗力士がいないので、尊富士が14日目に勝てば、110年振りとなる新入幕優勝となる。

 

審判部は、大関の霧島、貴景勝を対戦相手から降ろし、優勝の掛かる大一番に相応しい相手として、朝之山を選んだ。

 

取組は、朝之山が優勝経験のある元大関の意地を見せ、新入幕力士の目の前での優勝を阻止した。

 

尊富士のこれまでの連勝のパターンは、左を差して相手にまわしを許さず、一気に土俵の外に持って行くというもの。朝之山は、立ち合い右脇を占めて左胸から当たって尊富士の左差しを防ぎ、逆に右を差して四つに組んで胸を合わせた。これで朝之山の形となって寄り切った。これで9勝5敗とし、明日の千秋楽に目標の二桁勝利を目指すこととなった。

 

           (朝之山が尊富士を寄り切る)

 

尊富士は、この取り組みで右足首を痛め、花道を一人で歩けず車いすで戻り、そのまま救急車で病院へ運ばれた。明日千秋楽の出場は難しいと思われたが、強行出場して豪ノ山に勝って優勝した。

 

<千秋楽>

今迄の対戦成績が3連勝と相性の良い若元春戦であったが、相手の得意の左四つをゆるして、寄り切られてしまった。

 

 

これで春場所の成績は、9勝6敗とまたもや二桁勝利は達成できなかった。今場所は中盤まで勝ったり負けたりして、なかなか波に乗れず苦戦したが、終盤に持ち直してなんとか9勝まで星を伸ばすことができた。まずはお疲れさまでした!

 

但し、課題も残った。照ノ富士に8連敗、豊昇龍に5連敗と相性の悪い力士には今場所も勝てなかった。これから更に上を目指すには、これらの苦手力士の研究を積み重ねて勝つ糸口を見つけて欲しい。

 

そして、体勢不十分のまま寄り立てて逆転負けするケースが目立った。その辺を考慮に入れてこれからの稽古を工夫して、もっと強くなって欲しい。