'23年秋場所の朝之山

7月の名古屋場所で、朝之山は7日目の豊昇龍戦で左腕二頭筋部分断裂(全治4週間)の負傷を負い4日間休場した。12日目に再出場し4連勝して千秋楽に8勝4敗3休とし、勝ち越した。これにより、秋場所の番付を前頭4枚目から2枚目まで上げた。

 

名古屋場所で再出場しなければ、4勝4敗7休となり番付は前頭の幕尻近くまで下げていたと思われる。そして年初から目標にしていた年内の三役昇進は非常に難しくなっていただろう。

 

再出場することによる怪我の悪化も考えられ、賭けでもあったが、女神は朝之山に味方し、4連勝して勝ち越すことができた。「怪我を悪化させないために1秒でも早く勝負を付けようと出足などに気を遣った」と朝之山は言っているが、それが好結果に繋がったようだ。

 

名古屋場所後の夏巡業は、当然休むものと思っていたが、初期の2場所に参加してまた腕が痛くなり、その後欠場した。8月下旬には地元、黒部、金沢、氷見で夏巡業が開催され、これには参加し、毎回4500~5000人の観客が集まったそうだ。朝之山は不祥事を起こして以来の里帰りで、地元ファンへのサービスにこれ努めた。

 

8月27日夏巡業最後の氷見場所の朝稽古で、朝之山は右足親指を負傷した。力士にとって足の親指は、土俵の土を噛かんで前に出たり、踏ん張ったりする為の大切な場所だ。出足を重視している朝之山にとっては、秋場所を二週間後に控えて誠に具合が悪い。

 

秋場所は9月10日から始まるので、2週間くらい前から本場所に向けての調整に入るのだが、朝之山は左腕と右足親指を負傷しているので、9月に入っても相撲を取る稽古ができない。連日四股やすり足の基礎練習で汗を流していた。

 

6日、7日に前頭千代翔馬十両欧翔馬が高砂部屋に出稽古にきて、関取衆相手に15番くらい相撲を取る稽古ができた。稽古量が少なく内容にも納得していないが、相撲を取る稽古ができないまま、ぶっつけ本番で本場所を迎えることだけは回避できた。

 

秋場所を前にして朝之山は「目標は、二桁白星で優勝争いに絡み、来場所の三役復帰を目指す。左腕と右足の負傷は不安要素ではあるが、自分の相撲を取れば結果はついてくる。前に出れば痛みは問題ない」と語り前に出る積極的な相撲を誓った。

 

秋場所直前に、横綱照ノ富士の初日からの休場が発表され、今場所も混戦が予想され、新大関豊昇龍の話題がマスコミを賑わせた。朝之山は西前頭2枚目なので上位力士との総当たりとなり、真価が問われる場所だ。

 

そして、9月10日、東京両国国技館で大相撲秋場所が開幕した。

 

 

秋場所の朝之山取組結果>

 

       対戦相手       決まりて      勝敗

初日    関脇 若元春      寄り切り      勝

二日目   関脇 琴ノ若      上手投げ      勝

三日目   小結 錦木       上手投げ       負け

四日目   大関 貴景勝                    はたき込み     負け

五日目      大関 霧島       外掛け       負け

六日目       大関 豊昇龍      下手投げ      負け

七日目  前頭2枚目 阿炎     押し出し       勝

中日   前頭筆頭 明生     寄り切り       勝

九日目  前頭3枚目 玉鷲     寄り切り       勝 

十日目  関脇 大栄翔      突き落とし      負け

十一日目 前頭5枚目 湘南の海   寄り切り       勝

十二日目 小結 翔猿       寄り切り        勝

十三日目 前頭11枚目 御嶽海   寄り切り        勝

十四日目 前頭4枚目  正代        寄り切り       負け

千秋楽  前頭15枚目 熱海富士  寄り切り        勝

 

 

① 初日の相手は、先場所9勝で、大関昇進を逃し今場所に賭ける若元春。朝之山は若元春との相性は良く先場所も勝っている。

 

朝之山は、立ち合い若元春の右のど輪をはねあげ、とっさの左おっつけから左を深く差し、更に右もねじ込んで両差しとなり寄り切った。朝之山の完勝で、幸先良く初日を白星で飾った。

 

 

② 二日目の相手は、このところ成長著しく、今場所関脇に昇進し大関候補になった若手の琴ノ若。朝之山が大関に復帰するには、新たなライバルだ。

 

立ち合い、朝之山は琴ノ若にいなされて※身体が泳いだところを、左のど輪で攻め立てられて土俵際まで後退する。その後琴ノ若の猛攻が続くが、朝之山は俵をつたわって右に回り込み、土俵に戻ると一転反撃に転じた。左上手を取って前進し土俵際まで押し込み、懐が深く腰の重い琴ノ若を左からの上手投げで土俵に転がした。

※いなす:相手が出てくるところを、自分の右か左に身をかわすこと

 

   <琴ノ若に攻められながら、俵をつたわって右に回り込む朝之山>

 

         <左からの上手投げをきめる朝之山>

 

この取り組を審判として土俵下で見ていた二所ノ関親方(元稀勢の里)は、下記コメントをスポーツ紙に寄せている。

 

「攻防ある熱戦にお客さんの大歓声、土俵下にいて久々に興奮しました。大関を目指す琴ノ若を元大関の朝之山が投げ捨てる見応え十分な内容でした。

 

朝之山は、左上腕に加え、場所前に右足も負傷し、怪我の功名ではないですか、早く攻めないといけない心理状態が好結果を呼んでいます。左上手を取ってからの反撃が素晴らしかったし、いつもより左の使い方が良かった。土俵際での驚異の粘りは改めて地力があることを証明しました」

 

そして、宮城野親方(元白鵬)にはこの取り組み後、「優勝争いという意味では、(朝之山が)一番期待したい存在です」と言わしめている。

 

私は、まだ始まったばかりの二日目であるが、この状態に大いに満足し、明日から活躍を楽しみにした。

 

 

③ ところがところがである。三日目に小結の錦木と対戦して、右四つの長い相撲になり、朝之山が巻替えに出たところを錦木の上手投げで負けてしまった。錦木との対戦成績はこれまで、6勝1敗と合口の良い相手で、私も対戦前までは苦戦せずに勝てると思っていた。

 

これで、歯車が狂ってしまったのか、続く3人の大関貴景勝、霧島、豊昇龍)との3連戦も3連敗して、六日目で2勝4敗と序盤戦を大きく負け越す。

 

初日、二日目が良い勝ち方をしていただけに、負けが込んでくると親方連中の批評も厳しい。八角理事長からは、「まだまだ稽古が足りないようだ。大関に上がってきた時のようなドッシリさがない」と言われてしまう。

 

④ 七日目は番付同位の阿炎と対戦し、阿炎のツッパリにのけぞりながらも前に出て押し出しで勝ち、続く明生、玉鷲にも勝って3連勝。九日目で星を5勝4敗と一つ白星先行させた。

 

六日目から、土俵入りの化粧まわしを、「闘虎」の文字と富山商高時代の故人浦山監督の名入りのものに替えている。この3連勝は化粧まわしのお陰かもしれない。

 

 

⑤ このまま連勝を続けたいところで、十日目に関脇大栄翔戦が組まれた。大栄翔とは朝之山が幕内に上がった五月場所で、始めて当たった役力士で、完敗した。同学年でもあり、これまでの対戦成績も分が悪いので、雪辱を果たすべく臨んだが、今回も突き落とされて敗れた。十日目で又星は5勝5敗の五分となる。

 

⑥ 十一日目と十二日目の対戦相手は、共に合口の良い湘南の海と翔猿だ。二者共に朝之山の相撲で寄り切り、十二日目を終えて7勝5敗とした。 

 

⑦ 十三日目の相手は、今場所前頭11枚目まで番付を下げているが、元大関の御嶽海。不祥事前の御嶽海との過去の対戦は5勝6敗と負け越している。御嶽海は今場所は元気でここまで8勝4敗と勝ち越している。

取組は、立ち合い朝之山が頭からぶつかり、左上手を取って引き付けそのまま寄り切った。朝之山の完勝で十三日目にして8勝5敗と勝ち越した。

 

⑧十四日目は正代戦。これまでの対戦成績は8勝4敗で先場所、先先場所もなんなく勝っているので、勝てる相手と思ったが、立ち合い正代に両差しを許し簡単に寄り切られてしまう。相撲は分らないものだ。

朝之山は8勝6敗となり、目標にしていた二桁の白星は消滅した。

 

⑨千秋楽は前頭15枚目の熱海富士との対戦が組まれた。番付からすれば、前頭筆頭の北勝富士となるはずだが、優勝争いが混迷しているため、ここまで今場所の優勝争いを引っ張て来た、11勝3敗の熱海富士が相手となる。熱海富士は今場所再入幕を果たした21才の若手だ。

 

朝之山は立ち合い鋭く踏み込み、上手は取れなかったがそのまま押し込み、これで熱海富士に何もさせずに寄り切った。元大関の意地を見せ、熱海富士の本割での優勝を阻止した。

 

 

これで、秋場所の朝之山の成績は9勝6敗となり、場所前に立てた二桁勝利の目標を叶えることができず、来場所の三役復帰も東前頭2枚目の阿炎(朝之山は西前頭2枚目)も9勝6敗なので、絶望的となった。

 

当初の目標はクリアできなかったが、左腕と右親指の負傷を抱えての15日間、よくやったと思う。お疲れさまでした。来場所は今場所の無念を糧として、誰からも文句の付けつけようがないような成績で三役復帰を目指して欲しい。

 

一ファンとして、来場所へ向けての朝之山は、以下の課題に取り組んでもらいたい。

1. 突き押しの貴景勝、大栄翔対策の研究

2. 組んで上手を取る位置が今は深い。寄る際に上手を浅く取って前に出て行けば、投げを打たれずに万全な体勢で寄り切れる。(宮城野親方・元白鵬のコメント)