初場所の朝之山

令和5年1月8日、大相撲1月場所初場所)の幕が開いた。

 

私の贔屓(ひいき)の朝之山は、去年の九州場所、東幕下4枚目の地位で6勝1敗、11月30日の番付編成会議で正式に十両復帰が決まった。番付は西十両12枚目である。

 

相撲取りにとって、幕下と十両では格段の差がある。 

 

① まず呼称が「関取」(十両以上))と呼ばれ、幕下以下は無給だったものが、110万円の給与がでるようになる。

 

② 髷は大銀杏を結えるようになり、まわしは締め込み(本場所で締める絹製まわし)となる。

 

⓷ 化粧まわしを付けて土俵入りができる。

 

④ 取り組みが7日から15日になる。

 

⑤ 付け人が付くようになる。

 

⑥ 売店で自分の名前入りのグッズが販売されるようになる。(ちなみに今場所朝之山のタオルは、売り切れたそうだ)

等々である。

 

朝之山は初場所開幕前、「(関取の象徴である)大銀杏で、15日間相撲を取れることが嬉しい。1番でも多く勝って応援して下さる方々へ恩返しをしたい」と話していた。

 

スポーツ紙等は、朝之山関連記事を多く取り上げ、「全勝優勝なら一場所で幕内復帰」と書き立てていた。

 

そして迎えた初日、朝之山は富山後援会から贈られた「劒岳デザイン」化粧まわしを着けて十両の土俵入りをする。

 

 

「富山後援会は、大きな味方だった。不祥事を起こした時も解散せず、関取になるまで待っててくれた」と故郷で支えてくれる人達への感謝の思いを込めてこのまわしを着けたと語っている。

 

9日目からは、復活するまで支えてもらった東京富山県人会から贈られた「立山連峰デザイン」化粧まわしに替えている。

 

 

 

十両の取組は十両土俵入りの後、幕下上位5番の取組の後に行われる。土俵入り後何故十両の取組に入らず、幕下5番が組まれているのか疑問であったが、十両力士が土俵入りから帰って次の取組の仕度をする時間に当てているそうだ。納得した。

 

朝之山の初場所15日間の取組を見てみよう。

 

⑴ 初日 貴健斗戦

朝之山は、立ち合い高健斗に少し押しこまれて引いてしまったが、回り込んで突き落として勝利する。初日で朝之山も緊張したのか、三段目の相撲以降朝之山が「引く」のを見たのは始めてだ。

 

勝つには勝ったが、左上手を取って 朝之山の形での寄りを期待していたので、私は不満だった。

 

⑵ 2日目 千代栄戦 

朝之山は、突き放して落ち着いて危なげなく相手を突き出した。

 

⑶ 3日目 白鷹山(はくようざん)戦 

突き押しの白鷹山に対して、右差し左上手を取って一気に寄り切る。

 

⑷ 4日目 對馬洋(つしまなだ)戦 

昨日同様左上手を取って寄り切る。安心して見ていられた。

 

⑸ 5日目 魁勝(かいしょう)戦 

朝之山が左上手を取ったので、いつもの寄りかと思ったら、魁勝が下手投げを打ち、朝之山が一瞬ぐらっとしたが、その後朝之山が左から投げると、魁勝は土俵に崩れ込んだ。決まり手は浴びせ倒し。朝之山5連勝

 

⑹ 6日目 狼雅(ろうが)戦 

ロシア出身の狼雅は、四つ相撲の得意な若手有望株で、ここまで朝之山と同じく5連勝。

 

立ち会い、朝之山は左上手を取るが切られ、狼雅は左上手十分の形になる。両者しばらく土俵上で静止した後、狼雅が引き付けて寄るが朝之山こらえる。朝之山は左手をねじ込み、両差しの状態で寄って出て寄り切る。朝之山勝って十両単独トップの6連勝。

 

⑺ 7日目 島津海戦 

立ち合い、両差しの得意な島津海を警戒して、差し手争いから左上手を取る。島津海が寄ってきたところを朝之山が強力に引き付けると島津海は腰がくだけてひざまずいた。 決まり手は「すくい投げ」 朝之山7連勝

 

⑻ 中日 豪の山戦 

立ち合い豪の山が左へ回り込むのを、朝之山はもろ手突きで土俵際まで攻め込む。豪の山が押し返して寄ってきたところを朝之山は小手投げで制した。

 

中日で勝ち越し、関取では朝之山がただ一人の8連勝

 

⑼ 9日目 北の若戦 

朝之山は立ち合い踏み込んで一気に前に出て寄り切る。朝之山完勝で9連勝

 

⑽ 10日目 東白龍戦 

この日も朝之山は、立ち合いから左のど輪で一気に東白龍を押し倒して完勝、10連勝  

 

⑾ 11日目 大翔鵬戦

朝之山が10連勝したことで、マスコミは誰が朝之山に土に付けるか書き立てた。モンゴル出身28才の大翔鵬はここまで8勝2敗と好成績、右四つが得意なので朝之山とは右の合四つだ。

 

立ち会いすぐに、お互いが得意な右四つとなり、朝之山は左上手を取ったが切られてしまい、逆に大翔鵬に右差しを許し、左上手も十分に与えてしまう。この状態で大翔鵬に胸を合わせてじっくり寄り切られてしまった。朝之山は完敗、連勝もストップし10勝1敗

 

大翔鵬は取組後「朝之山さんは十両で負けられないと言うプレッシャーがあるが、自分は今場所勝ち越しているので、気持ち的には自分のほうが有利だと思っていた。なので思い切っていけた」と語った。

 

負けて朝之山は大いに落ち込んだが、師匠の高砂親方元朝赤龍)や、母親に「切り替えて一日一番と言う気持ちで頑張って」と励まされ、気を取り直したと いう。

 

⑿ 12日目 湘南乃海戦 

湘南乃海は今場所の新十両だが、ここまで9勝2敗の好成績だ。左四つが得意なので、朝之山とは「けんか四つ」だ。

 

朝之山は立ち合い差し手争いで、左をねじ込まれ、相手に右上手を取られたところで、下手投げで振って相手のバランスを崩して寄り切った。 朝之山は連敗せず11勝1敗

 

⒀ 13日目 金峰山(きんぽうざん)戦 

金峰山カザフスタン出身の25才、身長192㎝、体重179㎏、朝之山よりも一回り大きい。突き押しを得意とし、ここまで朝之山と同じく11勝1敗で将来を期待されている新鋭の力士だ。ここまでの取組をビデオで見たが、突き押しの威力が抜群で、安定した勝ち方をしている。1敗同士の対戦で、事実上の優勝決定戦だ。

 

立ち会い、金峰山が突いて来るところを朝之山はいったん止めて、組もうとするが叶わない。その後金峰山は身体を低くして寄って出て、土俵際で突き放す。朝之山はそのまま土俵を割った。しかし行司は、金峰山が一瞬早く手を土俵に付いたと見て、軍配を朝之山に上げた。

 

土俵下の勝負審判から、「朝之山の土俵を割るのと、金峰山が手を付くのが同時ではないか」と物言いがつき協議した結果、金峰山の手が先についており、行司軍配通り朝之山の勝利が確定した。(取組後のスロービデオ再生でも、金峰山の手がはっきりと先に付いていた)

 

朝之山は危なかった。朝之山は「相撲に負けて勝負に勝った」と言う所か。それにしても金峰山は強い。今後の朝之山の強敵となる力士だろう。

 

朝之山は12勝1敗となり、再び単独トップとなった。

 

⒁ 14日目 千代の国戦

ベテラン千代の国は、闘志あふれる取り口で、私の好きな力士であるが、怪我が多く幕内と十両の間を行ったり来たりしている。今場所前に膝の手術をしての出場で、十分稽古ができなかったらしいが、それでも10勝3敗と好成績だ。

 

朝之山は大関昇進前に、千代の国と2回対戦し2勝している。

 

千代の国は立ち合い後右にはたくが、朝之山は踏ん張ってこらえ、突き押しで前に出る。そのまま、千代の国を抱え込んで西の土俵に追い詰めて寄り切った。

 

朝之山はこれで13勝1敗 この後の金峰山と剣翔の取組で金峰山が敗れ3敗となったため、この時点で明日の千秋楽を待たずに朝之山の優勝が決まった。 

 

⒂ 千秋楽 北青鵬戦

北青鵬は、身長は2mと身長で関取最高の21才の新鋭だ。今場所は好調でここまで9勝5敗、中盤までで金峰山に勝った唯一の力士だ。四つ相撲の力士で組んだらしぶとい。

 

立ち合い朝之山は、直ぐに相手の上手を引いて自分の形になり、寄っていくが残される。その直後、上手投げで北青鵬を振って寄り切った。

 

朝之山は見事な取り口で千秋楽を勝って、14勝1敗として初場所を終えた。

 

これで全勝は逃したが、1敗での優勝なので、もしかしたら十両は1場所通過で、3月の春場所は幕内に復帰できるかもしれない。

 

 

 

朝之山が十両優勝した。「朝之山は大関経験者で怪我や病気で番付を下げたわけではないので、幕下や十両力士に勝って当たり前で、朝之山と対戦する力士は可哀そうだ」という意見もよく聞く。

 

しかし、朝之山との対戦力士も、「めったにない機会なので勉強になる。今後の参考にしたい」と前向きにとらえる力士も多い。

 

一方朝之山側からすると、相手が格下であっても連勝することは並み大抵ではない。相手は負けても当然なので、思い切っていき、自分の長所を発揮できる。相撲は一瞬で勝敗が決まることが多いので、この精神的な「気分」の効果は計り知れない。

 

そういう状況の中で、朝之山は全勝こそできなかったものの、14勝1敗で優勝できたことは、素人目にも大したことだと思う。新しい顔ぶれがひしめく十両でも、大関経験者としての実力を十分見せつけてくれた。

 

朝之山も自分を応援してくれる人々に、素直に謙虚に感謝しつつ戦った結果であろう。

 

朝之山 おめでとう!