'23年九州場所の朝之山

秋場所の朝之山の番付は西の前頭二枚目で、成績は9勝6敗だった。これを受けた九州場所の番付は、小結に二つ空きができたが、勝ち星が一つ足らず、三役昇進はならず、北勝富士、阿炎に小結の座を譲り、東の前頭筆頭に甘んじることになった。

 

この番付だと、九州場所で勝ち越しさえすれば、来年の初場所では、念願の三役昇進が濃厚となる。

 

10月の秋巡業では、朝之山は、三番稽古※1や申し合い※2に、上位陣から指名されて密で充実した稽古を重ね、貴景勝とも互角かそれ以上の勝負をして手ごたえを感じていた。

 

※1 三番稽古 実力のほとんど同じ力士が、二人で何番でも納得するまでやる稽古

※2 申し合い 実力の余り変わらない力士が、勝ち抜き戦を行い、勝った力士が次の相手を指名し、対戦相手を変えながら続ける稽古

 

ところが、10月28日の広島巡業中の朝稽古で、錦木とぶつかり稽古をしていて、左足のふくらはぎを肉離れしてしまった。11月12日からの本場所2週間前の大事な時期の怪我で、以降実戦稽古は全くできなくなってしまう。

 

本場所開催2日前の11月10日、朝之山は協会に「左腓腹筋損傷の為、21日間の安静加療を要する」という診断書を提出して、九州場所は初日から休場することになる。

 

「ここまで来たからには、出場したかったですが大怪我につながりかねないので・・回復次第では、負け越しても出る(途中出場)つもり」と語る。

 

12日本場所が始まったが、左足の痛みはまだかなりあり、朝之山は部屋で他力士の活躍をテレビで見ることになる。

 

朝之山は11月18日、19日の中日(八日目)からの再出場を決めた。

 

「六日目の朝稽古後、左足は大分動けるようになった。初日の状態と比べたら、すごく良い。傷みが完全になくなったわけではないが、土俵に上がったら関係ない。負け越しで途中出場するよりも、勝ち越しの可能性を残して出場するからには、全力でやりたい。※3

※3 中日から8連勝すれば勝ち越せ、来場所三役が期待できる。

 

「途中出場には賛否両論あるのは分っている。でも何よりもこの場所に出ることが、これからの自分の為になると思って決めた。腹をくくった結果、今は早く本場所の土俵に立ちたい」

 

九州場所の朝之山の取組結果>

 

          対戦相手     決まりて      勝敗

初日~七日目     休場

中日(八日目)    貴景勝     下手投げ       勝

九日目        霧島      はたき込み      負け

十日目        大栄翔     押し出し       負け

十一日目       豊勝龍     下手投げ       負け

十二日目      北勝富士               押し出し      負け

十三日目       若元春     寄り切り       勝

十四日目       正代                      寄り切り       勝

千秋楽        阿炎      突き落とし      勝     

 

 

① 中日の途中出場で迎えた最初の取組相手は、先場所優勝の大関貴景勝

朝之山は戦い前、土俵下の控えで待つ間、10才で相撲を取り始めて以来経験したことの無い緊張感に襲われ足が震え出した。土俵に上がった仕切り中も震え、時間いっぱいの仕切りで、館内の声援を聞いてようやく震えが止まり「思い切っていこう」と自分を奮い立たせた。

 

相手の貴景勝も綱取りに一敗も落とせない一番で、必死の形相で迫ってくる。朝之山は激しい突きをしのぎ続けたが、土俵際まで追い込まれる。この窮地で朝之山は何とか左下手を取って、左に回り込みながら捨て身の下手投げ、両者土俵下に飛び込んだ。軍配は朝之山。だが物言いがつき協議の結果、軍配通り朝之山の勝となった。

 

② 九日目の相手は、大関霧島

朝之山は立ち合いから、圧力をかけ続けたが、霧島のいなしからのはたき込みで、霧島を押し出しながら前に倒れた。軍配は霧島だが「朝之山の右手が付くのと、霧島の左足が土俵を割るのが同時ではないか」と物言いがつき、協議の結果、霧島の勝となった。二日続けての微妙な取組結果となる。

 

この日負けたことにより、1勝1敗7休となり、今場所の負け越しが決まり、三役の可能性も消滅した。

 

気落ちしていないかとの記者の質問に「ない!前に出ていたので、明日に繋がる負け」と今日の負けを引きずっていない様子だった。

 

③ 十日目の相手は関脇大栄翔

朝之山は立ち合い胸から当たって踏み込もうとしたが、大栄翔に突き放され、引いた僅かな一瞬に一気に押し出された。完敗だ。

 

④ 十一日目 大関豊勝龍戦

立ち合い直ぐに右四つとなり、豊勝龍が下手投げ打ってくるところを朝之山も上手投げで打ち返すが、豊勝龍の引き付けからの投げが厳しく、豊勝龍の下手投げに屈する。

 

昨日の大栄翔戦といい本日の豊勝龍戦といい、朝之山は両者との対戦成績が悪く同じような負け方をしている。今後上に上がるには、苦手力士を作るのはまずい。今後の稽古で対策を研究して欲しい。

 

⑤ 十二日目 小結北勝富士

朝之山のこれまでの北勝富士戦の対戦成績は10勝2敗と分の良い相手だ。今日は勝って連敗脱出といきたい。

 

立ち合い後朝之山は、一旦は北勝富士を土俵際まで追い込むも、上手が取れずモタモタしている間に、北勝富士の一瞬の引きからの押しで土俵を割った。押し相撲力士(貴景勝、大栄翔、北勝富士)は一瞬引いてからの押すタイミングが実に上手い。

 

朝之山はこれで、1勝4敗7休の4連敗となり、朝之山ファンとしては、欲求不満が募るばかりだ。

 

⑥ 十三日目 関脇若元春戦

優勝争いは、二敗の霧島、熱海富士に絞られ、負け越している二人(朝之山、若元春)の取組に対しては、NHKのカメラも冷淡だ。仕切りの様子をじっくり見たかったが、仕切り中は他の力士が映し出されていた。時間いっぱいとなってやっと二人の姿が映った。

 

立ち合い後、若元春が上手を取って出てくるところを、朝之山は右からのすくい投げで若元春の身体が大きく崩れたところを寄り切った。朝之山五日ぶりに勝ち名乗りを受ける。

 

 

 

⑦ 十四日目 前頭2枚目正代戦

正代は熊本県出身なので、九州場所はご当地力士だ。客席には、朝之山と同じくらいの応援タオルが揺れていた。

 

立ち合い後、朝之山は左の上手を取って引き付けながら、一気に前に出て正代を寄り切る。この場所で初めての朝之山らしい相撲で勝った。

 

⑧ 千秋楽 小結阿炎戦

立ち合い後、阿炎の強烈なもろ手突きとのど輪を、朝之山は弓ぞりにのけぞりながらも下がらず凌いで残し、両手で突いて阿炎に土を付けた。

 

今年最後の取組も、白星で飾り、九州場所は4勝4敗7休となった。 

 

 

朝之山は不祥事による出場停止処分が明けた昨年7月の名古屋場所で、三段目からスタートして以来、8場所連続して勝ち越し、前頭筆頭迄番付を上げてきた。今場所は、場所前のふくらはぎの怪我で、初日から7日目まで休場し、中日8日からの出場の為、成績も4勝4敗7休と不本意な結果となった。

 

来場所の番付は、前頭10枚目位まで下がるだろうが、今度は怪我の無い万全の体調で臨んでもらいたい。怪我さえなければ、三役、大関への復活も朝之山ならできると思う。