昨年最後の九州場所は、場所前の稽古で痛めたふくらはぎの怪我で初日から7日目まで休場した。中日8日目から出場して、4勝4敗7休となり、東前頭筆頭から西前頭7枚目まで番付を下げた。
昨年末、九州場所が終わって足の治療に専念したが完治までには至らず、年内は本格的な稽古はできなかった。
年が明けて初場所が真近に迫り、徐々に稽古量を増やしていき、元稀勢の里の声かけもあって、二所ノ関部屋へ出稽古に赴いた。ここで新鋭の大の里と4番手合わせをして朝之山は1勝3敗と負け越す。朝之山はこの結果に納得できず、再度二所ノ関部屋への出稽古を願ったが、調整がつかず叶わなかった。
1月14日(日)大相撲初場所が開幕した。朝之山の場所前の稽古は十分とは言えなかったが、先場所のような怪我も無く初日を迎えることができた。
1. 序盤戦
対戦相手 決まりて 勝敗
初日 前頭7枚目 一山本 押し出し 勝
二日目 前頭6枚目 金峰山 寄り切り 勝
三日目 前頭6枚目 湘南の海 寄り切り 勝
四日目 前頭8枚目 北青鵬 寄り切り 勝
五日目 前頭8枚目 平戸海 寄り切り 勝
初日、先場所敢闘賞を受賞した一山本をなんなく押し出しで破ると波に乗り、朝之山は序盤戦を危なげなく勝ち進んだ。特に、二日目の金峰山戦は、実況のアナウンサーが取組後に「朝之山は、立ち合いの踏み込み、かける圧力、そして左上手、言うことないんじゃないですか」と言うと、解説者は「もう言うことないです」と褒めていた。
序盤の朝之山は、アナウンサーの言うように立ち合い鋭く踏み込み、圧力をかけて一気に前に出て勝負を決める朝之山らしい勝ち方をしている。
<4日目>
私は序盤戦の山は、四日目の北青鵬戦だと睨み、この一番に勝てれば今場所は優勝争いに加われると予想した。
朝之山は、幕内になって二回北青鵬と対戦して、立ち合い変化されたり、204㎝の体格を生かした攻めに翻弄されて負けている。この日取組前に朝之山は、「考えてもきりが無い。思い切っていこう」と力強く踏み込み、一気に前に出て圧勝した。
<4日目 寄りきりで北青鵬を下す>
これで、序盤5日間は5連勝と中盤、終盤が楽しみになってきた。
2. 中盤戦
対戦相手 決まりて 勝敗
六日目 前頭5枚目 錦木 下手投げ 勝
七日目 前頭9枚目 明生 寄り切り 勝
中日(八日目) 前頭10枚目 玉鷲 すくい投げ 負け
九日目 前頭14枚目 阿武咲 休場 不戦敗
十日目 休場
中盤に入ると、序盤のような盤石な勝ち方ではないが、六日目七日目と勝ち進み、六日目に琴の若が敗れて1敗となった時点で、幕内では全勝が朝之山一人となり、優勝争いは朝之山が引っ張る展開となった。
解説者の多くは、元大関の朝之山が前頭7枚目の位置での序盤の全勝は驚くには当たらないとし、優勝争いに朝之山に目を向ける者は少なかった。
私は、ファンの贔屓目(ひいきめ)かもしれないが、中盤の十日目迄に1敗くらいでいき、序盤のような朝之山の相撲を取れば、上位と当たっても十分勝つことができ優勝も夢ではないと思うようになっていた。
<中日>
そして中日に玉鷲と対戦することとなる。朝之山はここまで幕内単独トップの7連勝、これまでの対戦成績でも勝ち越している玉鷲に勝って8連勝として、中日での勝ち越しを決めたいところだ。
両者が土俵に上がると、場内は至る所に朝之山の応援タオルが揺れ、歓声と熱気に包まれる。9割方は朝之山の応援と思われる。玉鷲はこの日、通算出場記録が1572回に達し史上10位となった。玉鷲は館内の朝之山の大歓声に「自分にとっても記念の日だ。ナニクソ、一泡食わせてやろう」と思い奮起したに違いない。
立ち合い、激しい玉鷲の突き押しに朝之山は、のけ反りながらも突き返して前に出ていく。玉鷲のまわしに手がかかりそうになった時、玉鷲が左に振ったすくいなげで朝之山に土がつく。この際踏ん張った右足を捻じった感じとなり、土俵下に転げ落ちた朝之山はしばらく立ち上がれない。花道を引き揚げる時は特に右足を引きずる様子は無く、記者にも「大丈夫」と答えていた。
やはり右足を挫いた(くじいた)ようで、翌朝には腫れも広がり四股を踏むこともできずに九日目からの休場を協会に申し出た。
単に一敗だけで済んだのなら、まだまだ優勝争いに加わって、今場所は面白いものになっていたであろう。誠至極に残念だ。朝之山は優勝戦線から脱落した。
3. 終盤戦
対戦相手 決まりて 勝敗
十一日目 休場
十二日目 、 休場
十三日目 前頭3枚目 豪ノ山 小手投げ 勝
十四日目 前頭筆頭 熱海富士 寄り切り 勝
千秋楽 関脇 大栄翔 引き落とし 負け
休場してからも朝之山は途中出場を窺っていたが、十二日目の朝稽古で、蹲踞(そんきょ)※ができるようになり、少しは踏み込めるようになった。まだ相撲を取る稽古はしていないが、師匠高砂親方に十三日目からの再出場を申し出た。
※蹲踞:相撲の基本姿勢で、つま先立ちで膝を曲げて腰を下ろし、膝を開いた姿勢を取 ること
親方は「できればしっかり治してほしいけど、本人が一番わかっているから。出るからには思い切ってやってほしい」と再出場を了承する。
<13日目>
再出場最初の取組相手は、前頭3枚目の豪ノ山に決まる。豪ノ山の今場所は、ここまで4勝8敗と負け越しているが、立ち合い後の下からの圧力が強力な若手の有望力士だ。
取組は、立ち合い朝之山が珍しく2回つっかけた※。解説の宮城野親方(元白鵬)は豪ノ山が立つのが遅いと指摘する。3度目の立ち合いで朝之山は豪ノ山の圧力を受け若干押し込まれたが、これを受け止めた朝之山は右からの小手投げで豪ノ山を土俵に裏返した。
※つっかける:仕切りで、呼吸が合わずに相手より先に立ち上がりかけること
取組後、記者の質問に「相撲の内容は受けてしまって良くないけど、タイミングよく小手投げが決まった。勝てて良かった。心配した右足も大丈夫、声援もあるし」と答えている。これで、8勝2敗3休で今場所を勝ち越した。
<14日目>
対戦相手は前頭筆頭の熱海富士、熱海富士は、先場所、先々場所大活躍して前頭筆頭まで番付を上げて今場所に臨んだが、序盤戦の大関、関脇戦で4連敗し、ここまで6勝7敗と後が無い。今日負けると負け越すことになるので、何としても勝ちたいところだ。
取組は、立ち合い後出足に勝る朝之山が、鋭く右を差し熱海富士を一気に寄り切った。土俵際、朝之山が前に落ちたが、熱海富士の足が先に俵の外に出ていた。
今日勝って、9勝2敗3休となり、明日の千秋楽で二桁勝利を目指すことになった。
<千秋楽>
対戦相手は、14日目の取組中の放送では、優勝を争っている関脇琴の若の名前も挙がったが、全取組終了後、2時間位してようやく関脇大栄翔に決まった。
朝之山は大栄翔に対して分が悪い。不祥事以降幕内に上がってから、大栄翔に不戦敗を含めて4連敗している。これまでの雪辱を果たし、この場所を二桁白星にして終わりたいところだ。
立ち合い朝之山は大栄翔の突き押しに下がって土俵際でこらえていたが、一瞬の引き落としに手を付いてしまった。
千秋楽を終わって、9勝3敗3休の成績で初場所を終えた。
朝之山は今場所、又もや怪我に泣いた。怪我をしなければもう少し勝ち星を上積みできたはずだ。
来場所前の3月1日に朝之山は30才になる。若い実力のある力士がどんどん上に上がってくる。彼らに対抗する為にも、是非とも怪我をしない身体作り(四股を毎日500回以上踏むとか)に励んでほしい。