11月20日にアップした「へんろ日記番外編2」の続きで、「へんろ日記」は今回が最終回です。
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12月12日(火)(晴)2017年/平成29年
<51日目 熊野本宮→新宮→相賀→馬越峠→尾鷲>
旅も終盤に入り、今日は熊野古道伊勢路で人気の高い「馬越(まごせ)峠」を歩いてみようと思う.
4:00 昨夜一軒家の民宿に一人で宿泊して起床。この宿とスナックのオーナーである若いママさん夫妻は、4時に車で京都に出発している。昨夜遅くまでへんろ話に付き合っていただいたお礼のメモを書く。
8:30 本宮から新宮行のバスに乗車 バスは「日本最古の湯」とも言われている「湯の峰温泉」に寄ってから、熊野川沿いの国道168号に出る。
最前列の運転席の隣に座って窓外の景色を楽しむ。山中の道は狭く急カーブの連続で、バックミラーが道端の岩に衝突スレスレで通過する。肝を冷やしながらも、「さすがプロの運転手さん」と感心する。
昨夜ママさんが作ってくれた朝食用のサンドウィッチをバスの中で食べる。美味。
9:50 新宮着 ここから我が家の最寄り駅までのJR切符を通しで買った。
10:24 JR紀勢線紀伊長島行に乗車。車内でママさんの作ってくれたもう一つの弁当「炊き込みご飯の握ったもの」を食べる。サンドウィッチもこのおにぎりもレストランかホテルで作ったもののように洒落た包装用紙に包まれ、味も抜群で大満足する。
11:49 相賀着 ここから馬越(まごせ)峠登り口まで、国道42号を歩く。透明度が素晴らしい銚子川の流れを眺めながら橋を渡っていて、地元の女子高校生二人連れに追いついた。学校帰りの様子、この時間だと期末試験中か?
並んだ時に「馬越峠登ったことある?キツイかな?」 と声をかける。普段は知らない女子高生に声をかけることは絶対ないが、旅が長くなって、声かけの抵抗感が薄らいだようだ。「尾鷲側から登ったけれど、キツクてバテました。」と笑顔で答えてくれた。
12:30 登山口 登り始めて少し行くと美しい石畳道が2㎞ほど続く。
写真ACより 「うな~」さんの作品
この石畳道は熊野古道のポスターによく使われている。峠下は急勾配の坂道だ。
13:15 馬越峠 女子学生に登りがキツイと言われたので、覚悟したが案外と楽に登れた。見晴らしは無い。
13:35 展望台 熊野灘の展望を期待したが、見えたのは尾鷲の町のみだった。
歩きやすい登山道を快適に下って尾鷲市街に入る。
時間が早かったので、港へ寄ってから尾鷲の町をぶらぶら歩きながら、駅前のビジネスホテルへ向かった。
14:50 ホテル着 ホテルの外観はイマイチだったが、室内の設備は気に入った。機能的な広い机と照明が配され、ベッドメーキングもキチキチに上掛けを固定していなくて満足する。
マスターがお茶のペットボトルをサービスしてくれた。純朴そうな感じで好感が持てた。
17:00 割烹料理屋N 明日帰路に就くこととしたので、今夜がこの旅の最後の夜だ。最後の夜を美味しい料理でも食べて締めくくろうと、ホテル近くのこの店を訪れた。
早い時間なので店の人も相手してくれるかと期待したが、店へ入ると大将と弟子の板前が一心不乱に魚を捌(さば)いている。今晩この店で忘年会が開かれるようで、今はその仕込みの真っ最中なのだ。
そこへ見知らぬ男がふらりと入ってきたものだから、「この忙しいところへ、何だこの男は?」と言う顔をされる。宇和島の居酒屋へ入った時のような雰囲気で居心地の悪さを感じる。
気を取り直して、お酒別で5000円のお任せ料理を注文。大将も商売だから忘年会料理の仕込みの合間に、サザエのつぼ焼き、刺身の盛り合わせ、おこぜの煮付け、牛鍋、天ぷら等を作ってくれた。
お酒も入って、黙って飲んでいてもつまらないので、弟子の板前に話しかけると、笑顔で返答してくれたが、大将に笑顔はない。大将に130回へんろで四国を回った人の話をすると、「1回で十分ではないか」と言う。バカじゃないかとでもいう物言いだ。
私はそれを聞いて大笑いし、「そうだよな、興味や関心のない者にとっては、そんな話面白くもなんともないよな」と納得した。
お酒とお茶漬けを足して9000円を払って店を後にする。
よくテレビの旅番組で、地方の酒場でその土地の話を聞いたり、勧められる地酒を飲みながら和気あいあいと談笑している場面がある。私も地方の酒場へ入る時は、そのように初めての見知らぬ土地で、店の主人や地元の人たちと、都会では聞けないようなその土地ならでは話が聞けるかなと期待する。
しかし今回の旅で訪れた宇和島やこの尾鷲のお店は、いずれもそのような酒場ではなく、地元の常連以外の一見(いちげん)の客に対しては、どちらかというと排他的で居心地も悪かった。
ただ、世の中には素敵な酒場も数多くあるはずで、もっと沢山の酒場を訪れていれば、地元の話が聞けるようなお店にも巡り合っていたと思う。
20:00 コンビニ寄ってホテルへ戻り、マスター夫妻から近年のビジネスホテル経営の難しさ等の話を聞いて、就寝する。
12月12日の歩数 19,800歩 歩行距離 12.9㎞
12月13日(水)(晴)
<52日目 尾鷲→三野瀬→伊勢神宮→名古屋→自宅>
いよいよ旅の最終日、伊勢神宮へ寄って帰ろうと思う。
7:32 尾鷲 紀勢線上り普通列車に乗車、旅の終わりに静かな海岸の波打ち際に座って、波の満ち引きをゆっくり見ようと、スマホ地図で海岸に近い駅を捜す。それが三野瀬駅
8:20 三野瀬海岸 駅から歩いて20分ほどの海岸だが、少し先に無粋な防潮ブロックが並び、波はほとんど無く、当初の目的は果たせなかった。
9:00 三野瀬駅に戻って、9:34の多気行普通列車を待つ。ホームで紀伊長島の歯医者さんに行くお婆ちゃんと立ち話をする。昔名古屋に住んでいたという小さなカワイイお婆ちゃんだった。
11:53 多気で参宮線に乗り換えて、伊勢市駅着 この時はコロナ前で、伊勢参りの観光客はかなりいた。
12:00 外宮参道の土産物兼うどんや 土産物コーナーは消灯しており、店はやっていないかと思ったら、ボソッとお婆ちゃんが現れた。やまかけとろろ伊勢うどんを注文する。真っ黒な汁(つゆ)のグタグタに柔らかいうどんだ。見た目よりしょっぱくなかった。
店の入り口に「無料で荷物預かります」との看板があったので、「大きくて三つもあるがいいか?」と訊くと、OKとのこと。入店時声も無く、不愛想なお婆ちゃんだと思ったが、よく見ると、顔立ちも良くカワイイお婆ちゃんだった。
12:30~14:00 ザック、さんや袋、スゲ笠をお婆ちゃんに預けたので、荷物はスマホと財布を入れたナップザックのみの軽量となり、高速で外宮-内宮をお参りした。両宮間はバスを利用し、一時間強で回って来た。
最後の最後までセッカチな性格が現れた。
14:20 伊勢市駅 ここから快速みえ号で名古屋に出て新幹線で帰る。
19:19 帰宅
12月13日の歩数 17,600歩 歩行距離 11.4㎞
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以上で2017年(平成29年)10月22日から12月13日まで旅した私の二回目の四国遍路旅とその後の追加旅が終わった。一番霊山寺からを一日目と数えて52日、自宅から霊山寺までの出発日を加えると、52泊53日の長旅だった。
「へんろ日記」は、昨年10月26日このブログに1回目を掲載し、以降非定期で連載したので、最終回までに1年以上を要してしまった。何とか最後まで書き終えて安堵している。
旅の総括
1⃣ 成果 今回も沢山の素晴らしい方々とお会いし、一期一会の貴重な体験をさせてもらった。53日間の非日常を満喫し、達成感も味わえた。
2⃣ 88カ寺 皆それぞれ個性豊かでで味わい深かったが、その中でも下記のお寺さんが心に残った。
2番 極楽寺: 小さいが清潔感があって気持ち良い
12番 焼山寺: 渋い 荘厳
27番 神峯寺: 遠くに土佐の海 静かな山寺
40番 観自在寺:どこか懐かしい地元に根付いたお寺
46番 浄瑠璃寺:境内が掃き清められ、納経の女性が、とても親切
52番 太山寺:堂々とした山寺
58番 仙遊寺:今治や瀬戸内海が一望できる、宿坊は塵一つなく清潔 温泉ホテル並み
64番 前神時:渋くて雄大で奥深い
84番 屋島寺:大きいが境内が清らかで気持ち良い
86番 志度寺:どっしりとした重厚なお寺
3⃣ ベスト3
① 美味しかったもの
・室戸岬手前の民宿で出された天ぷら(客が座席に着いてから揚げる)
・愛媛県北条の旅館の鯛めし、鯛のひれ酒
② 絶景
・82番根来寺から鬼無へ下る県道から見た瀬戸内海
③苦しかった道
・12番焼山寺手前のへんろ転がしNo6
・88番大窪寺手前の女体山
・九度山からの町石道(雨/雪の中登る)
④快適な道
・66番雲辺寺から長時間下った後の緩やかな下りの県道
⑤雨/雪
・愛媛県内子~久万高原の山中の雨
・松山市内のどしゃ降りの雨
・88番から1番へ向かう時の吹雪
⑥ へんろコースの伝統工芸
・徳島県 藍住町の藍染(2番、3番近辺)上板町の和三盆(6番近辺)
・愛媛県 内子の和ろうそく、菊間の鬼瓦
・香川県 鬼無の盆栽
⑦「おう!」と声が出るほど感動した所
・高架の「しまなみ海道」を地上からループ道を上り、本線と合流し眼下に瀬戸内海の島々が見えた時
・町石道を登って高野山に出て、目の前に巨大な大門が現れた時
4⃣ 今回の旅を一言で言うと
「行って良かった!!」
ちなみに初回の旅は
「苦しいけど楽しい!!」
ー終わりー