九州場所の朝之山

名古屋場所で三段目から復帰した朝之山が三段目優勝し、翌秋場所では幕下15枚目となり、ここでも優勝すれば、九州場所十両昇進が約束された。しかし6番相撲で勇麿に突き落とされて、復帰後初黒星を喫しこの場所は6勝1敗で終わる。(幕下以下の取組は7番)

 

朝之山はこの敗戦に非常にショックを受け、取組後には引退も頭をよぎったという。自分を応援してくれる人が沢山いることを思い出しその人たちの為にも、もう一度頑張ろうと思い直したそうだ。

 

後に朝之山は、「あの1敗があったからこそ、今後の相撲人生につながる。将来『あの1敗があったからこそ』と言えるようにしたい」と気持ちを切り替えた。

 

そして迎えた九州場所、朝之山は東幕下4枚目となり、ここで好成績で(できれば優勝して)十両に上がりたいところだ。

 

令和4年一年締めくくりの九州場所は、11月13日から始まった。幕内は横綱照ノ富士が初日から休場し、今場所も上位陣は、大関貴景勝を除いて、大関正代、大関から陥落した関脇御嶽海の成績は芳しくなく、正代はカド番で負け越し、来場所の大関陥落が決まってしまった。代わって関脇豊昇龍と平幕の高安、阿炎、王鵬、錦富士、輝が健闘し、この場所を盛り上げてくれた。

 

朝之山も早く十両、幕内と昇進し、幕内の優勝争いに加わって、活躍してもらいたいものだ。

 

今場所の朝之山の取り口を見てみよう。

 

          4番相撲徳勝龍戦  右が朝之山

 

 

1⃣ 初日 1番相撲

対戦相手:大成龍(幕下3枚目)  先場所の幕下優勝力士

勝敗、決まり手:○(勝)寄り切り

取り口:朝之山は、立ち合い直ぐに右を差し、左上手をとって自分の形になると、少し寄ってから上手投げを打ちながら寄り切る。

 

※この取組のNHK動画再生ランキングでは、幕内力士の取組を抜いて1位となった。

 

2⃣ 3日目 2番相撲

対戦相手:大翔丸(幕下5枚目)元平幕、平幕時代朝之山と対戦して5戦5勝している。

勝敗、決まり手:○(勝)、寄り切り

取り口:朝之山は、右を差して左の上手に手がかかると一気に寄り切る。過去の対戦成績は全く関係なく、朝之山の格の違いが感じられた。

 

 

3⃣ 5日目 3番相撲

対戦相手:白鷹山(幕下5枚目)元十両

勝敗、決まり手:○(勝)寄り切り

取り口:朝之山は、立ち合い鋭く踏み込んでもろ差し、胸を合わせるとすぐさま前へ出る。身長体重で自分より大きい相手に、しっかり圧力をかけて寄り切った。

 

 

4⃣ 6日目4番相撲

※朝之山は幕下であるが、成績が好調なので十両との対戦が組まれた。

対戦相手:徳勝龍(十両12枚目)近畿大学相撲部の先輩で、’20年初場所の幕内優勝経      験者、朝之山も’19年夏場所に幕内優勝しているので、幕内優勝経験者同士の対戦と話題   になる。

朝之山の幕内時代の対戦成績は、1勝1敗、初回は引き落としで負けている。

 

勝敗、決まり手:○(勝)押し出し

取り口:朝之山は、立ち合い鋭く踏み込んで攻め込み、土俵際での引き落としを警戒し、離れた時に相手を見て押し出して、徳勝龍に反撃を許さなかった。

 

髷(まげ)の大銀杏は十両以上でないと結えないが、朝之山は、この日復帰後始めて十両力士と対戦する為、十両の土俵に上がるので、昨年夏場所以来548日振りの大銀杏姿で登場した。朝之山も床山で大銀杏を結ってもらった時は感慨も一入(ひとしお)だったようだ。

 

対戦後朝之山は、「今日は大銀杏で黒まわしだったので、来場所は関取(十両)になって締め込みをして15日間戦いたい。」と記者にコメントしていた。

 

 

5⃣ 9日目5番相撲

対戦相手:湘南の海(幕下2枚目)

勝敗、決まり手:○(勝)、寄り切り

取り口:朝之山は当たって右をねじ込み、左上手も取って得意の右四つで寄っていく。土俵際で焦らずにこらえて寄り切った。

 

 

6⃣ 11日目6番相撲

※この一番も幕下の取組ながら、NHK動画再生ランキングでは幕内取組を抑えて1位になった。

 

対戦相手:玉正鳳 (幕下23枚目) 

勝敗、決まり手:● (負 け)、はたき込み 

取り口:玉正鳳がもろ手突きで朝之山の身体を起こした後、朝之山を引っ張り込みながらまわり込んで突き放す。朝之山はたまらず土俵外へ自分から飛び出した。

 

またも、先場所に続き鬼門の6番相撲で敗れた。5番相撲まで危なげなく快調に勝ち星を連ねてきたのも全く同じ展開だ。

 

朝之山の敗戦の弁「あごが上がって、引きについていったのが駄目だった。土俵際の詰めが甘かったです。負けたことは凄く悔しいけれど、もう一番ある。切り替えないと上にいけない。」

 

7⃣ 13日目 7番相撲

対戦相手:上戸(幕下10枚目)

勝敗、決まり手:○(勝)、寄り切り

取り口:朝之山は立ち合い右の肩で当たって右を差し、左上手を取るとそのまま前に出て寄り切った。

 

これで九州場所の朝之山は、幕下4枚目で6勝1敗の成績で終わった。今年最後の一番を取り終えて、朝之山は次のように言っている。

 

「今場所も優勝を目指してやってきたので、達成できなかったことが悔しいです。ここ一番で力を発揮できない自分が弱かった。来年はそれを克服して一番一番力を発揮できるようにしていきたい。」

 

朝之山が復帰してからの、3場所の成績は19勝2敗、元大関であるから、幕下以下の相手には、勝って当たり前と言われるかもしれないが、連勝を続けることは並大抵のことではないと思われる。

 

朝之山は、右差し左上手をとって、右四つで寄るという盤石な自分の型を持っており、勝った19勝はいずれもこの形で短時間に勝っている。見ていて危ない場面が全然ない。

 

今後朝之山が関取(十両以上)になった場合、貴景勝や大栄翔、玉鷲のような張り手の押し相撲の力士や、動き回る翔猿や小兵力士の対策をしっかりとれば、順調に勝ち星を連ね、優勝争いに加わって、十分優勝も狙える実力があると思う。

 

横綱白鳳の宮城野親方は、6日目の11月18日に朝之山の状態について、下記のコメントをネットに投稿している。

 

「自分から積極的に圧力をかけ、初心に戻って土俵に立っている印象をうけます。実力がある上に、心と体のバランスがあっていると相手は何もできないです。

 

元々、右四つという自分の型がありますし、完成に近いレベルです。今は精神面の強さを見つめ直している段階でしょう。更に心を鍛え、横綱を狙える精神力を持って、大関の地位に返り咲いて欲しいですね。」

 

来年初場所の番付は、優勝していれば十両昇進が確実であったが、1敗しているので十両下位力士や幕下上位力士の成績との兼ね合いもあって、正式には番付編成会議の結果を待たねばならない。

 

一ファンとしては、年が明けての最初の場所は、晴れて関取に返り咲いて、大銀杏を結い締め込みをして土俵に上がる姿を見てみたい。

 

幕下でありながら、NHKの動画再生ランキングでは何度も1位を取るということは、現状の幕内相撲には不満を持った「朝之山待望論」の相撲ファンが多く存在すると言う事であろう。

 

来場所以降の更なる活躍を祈る。